第16話 気まぐれな闘技場3

文字数 1,918文字


 

 戦闘が始まった。

 最初の一撃はこの本戦前の闘技では軽い余興である。あまりにも戦闘の次元が低すぎるからと、雑魚をふるいにかける予選は見世物の一つとして相手にすらされていないのだ。

 リザ―はここではベテランに分類される戦士だった。

 地下闘技場の土を最初に踏んだのは闘技場が国の鼻つまみものとして行き場を失う7年前から今に至る闘技を全て生きて戻ってきた。無論、勝ち残った事はないが、死にかける寸前で彼には直感で線引きができた。野生動物に似た直感がこれまで彼を生かしそして強くしてきた。

 だから予選ではひとまず体力を温存するべく、闘うフリだけにとどめて最後の二人になったところで、残る疲労困憊の一人を背にした遠距離武器で射貫くのがいつもの定石であった。彼は足だけは速かった。

「てめえさっきから逃げてばかりじゃねえかよ。こいや!」

 雪男みたいな体格の男が己の筋力を頼りにリーチの短い手斧を振り回している。こんな雑魚を相手にしている暇はないとリザ―は彼の執着心を逸らすべく、更に後退する。別の誰かと誰かの戦闘の合間にタイミングを合わせる。背後の小競り合いをかわしてそのまま彼へいざなう。

 予想通り、小競り合いしていた二人と追いかけてきていた男達の武具が衝突した。児戯のようなものだが、この展開に少なくとも彼のファンが数人沸いた。エールを送っていた。

 無視して更に集団から遠ざかる。予選でもたつく程、浅くはない。

 観衆の一人に女性がいて叫んでいたので、少し気をよくして口笛を吹いて応えた。

 っと、そのつんざくような声に程なく違和感を覚えた。エールにしては鬼気迫るものを感じたが、なんと言っていたのか思い出せない。

 待つまでもなかった。すぐに第二声が轟いた。

「リザ―! さっきから、狙われてるぞ! 避けろ!」

さっきより一段とでかくはっきりした声で聞こえた。

 彼はすぐさま、全方位に視線を這わせた。途中で目を剥く。

「なんだありゃ」

 すごい勢いで、バックステップを決めながら人を躱し逃げ続けていたリザ―。

その逃げ足を上回るが如き速さだった。

直線的に、そいつは彼を追い抜かん勢いで迫っていた。

「あんな奴いたか?」

 全員確認したわけじゃない。しかし少なくとも、全員人間のなりをしていたはずだ。

 そこにいたのは、明らかな、獣だった。

 ライオン——それも大層発育のいい大人のライオンが何故かリザ―一人をわき目も振らずに追いかけ続けていた。

 ようやく運営からでかい声で説明が入った。

「すまん戦士たち。貴様等は雑魚だ。見世物にすらならん雑魚だ。故に、そいつ一匹程度倒せないようなら話にならないってことで、見世物とダブルでお得なこの余興よ。さあ観客が愛想をつかすか、健闘して拍手喝采か、全ては貴様等にかかっている。気張れ!」

 無理言うなっと、よそ見をしていた戦士が一人、闘っていた相手に首を狩られて血を撒いた。

「くっそくそくそくそくそくそくそくそ」

リザ―は自分の顔色が今何色なのかすらわからなかった。獣は逃げると追ってくる。自分が狙われている理由がやたら逃げ続けていたせいだと気付いたのは、もう獣が目と鼻の先に迫っていた頃で、今更止まっても後の祭りだった。

「くそっ」

 既に目前に迫りつつあった獣。

 人間とは鍛え方も潜ってきた修羅場も格が違う。赤子の手をひねるように殺されるしかなかったリザ―が最後にとった行動。

 それは今まさに自分に噛みつかんとしている相手の目を見て、正面から最後の矢を射ることだった。

 この矢が当たれば或いは助かるかもしれない。仮に外れても誰かの助力になるかどうかはどうでもいい。

 私一人生きれば逃げきれれば。

 その考えは易々と覆る。彼の矢は射る寸でのところで、爪に弾かれ、もう片方の爪で肩口を掴まれ、そのままリザ―は闇に堕ちた。

 彼の撒いた鮮血が闘技場を凍らせ、全ての戦士たちが標的を獣に変えた。しかし誰かが、やばいやばいと、嘆く頃にはもう生き残っている戦士の数は半数まで減っていたのである。

 怖がる観衆を他所に続行、続行、と囃し立てる観衆が過半数を占めていた。

「予選に俺達は何も期待しちゃいねえ! 早く本番をだせ! こんな恥ずかしい試合見せやがるな! 続行、続行! 早く続けて早く終わらせろ!」

 三日の突貫工事で作られた天井にはでかい穴が開いたまま雨ざらしだが、その日は晴れていたはずだった。

 天を覆っていた白い雲が戦況をみているかのように黒々と黒ずんで闘技場一帯を覆っていた。

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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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