1987 戦慄の応援団

文字数 1,616文字


学校嫌いだった私は部活には入っていませんでした。

ですが高二の秋、
ホームルームで体育祭の応援団を募集した時があり、
学校嫌いのくせになぜか私は親友のエトウを誘い、
応援団に立候補しました。
その他に同じクラスから渋沢さん、山本さんも立候補し、
四人が応援団で出ることになりました。

マンモス校なうちの高校の体育祭は、赤組白組だけでなく、
青、黄、緑組がプラスされた全五色あり、我がクラスは白組。

早速初めての応援団の集まりがあり、
わくわくしてその場に向かうと、
そこは独特の空気が漂っていました。

三年生の幹部が自己紹介をします。

目力が強くショートカットでボーイッシュな団長、
色白でブラウンの瞳が印象的な副団長、
そして背の高いナンバースリーのムーさん。

副団長だけは優しく、
私たちににこやかにプリントを配ってくれましたが、
団長とムーさんは一切笑いません。

常に腕組みをしてこちらを睨んでいます。

「こ、こわ・・」

もしや来る所を間違えたか!?と思いましたが後の祭り。

練習は校舎の屋上で行われましたが、
右隣の校舎の屋上では緑組が先輩たちと和気藹々と
「ハッとしてグー」の替え歌の応援歌を練習をしているのが見えます。

左隣の校舎の屋上では黄色組がキャピキャピと
「うしろ髪ひかれ隊」の替え歌を。

そして我が白組の応援歌は一世風靡「風の唄」。

こ、硬派だ・・。

白組のみんなは笑顔なんてひとつも無く、

「ふーらり ふーらり ぬけーてー!!」

とドスの効いた声を張らされます。

「声が出てなーーーーい!!!!」

ムーさんの怒号が飛び交います。

必死で声を張り上げる私たち。

声が出ていない子は指名され何度も歌わされ、
団長のオッケーが出るまで許してもらえず、
泣き出す子続出でも団長は顔色ひとつ変えませんでした。

普段、私は体育会系のノリや強制される事が大嫌いなのですが、
この時はなぜか従順に団長やムーさんの要求に
応えようとしていました。

その甲斐あってか、私は三年生が競技に出ている間に、
団長の代わりを務める、二年の団長に任命されてしまいました。

私は決して前に出るようなキャラでもないし、
声だってそんなに大きい方ではありません。

なのになぜ・・?

二年の団長という事で、厳しさは私に集中するようになりました。

みんなの前に立たされ、
「さんさんななびょーーし!!!!」と叫ぶと

「もう一回」

とムーさん。

また「さんさんななびょーーし!!!!」と頑張って叫んでも

「もう一回」

とムーさん。

黙ってこちらをみている三年の団長。

団員たちはみんな私を哀れんだような目で見つめ、
練習の後は「大丈夫?」とか
「あいつムカつく!」とかねぎらってくれました。

団長とムーさんは怖かったけど、副団長だけは優しく
「頑張ってね」と言ってくれたのが救いでした。

そんな副団長はみんなの癒しの存在でした。

そして本番、私は二年の団長という事で、
普通の団員とは別の数倍長いハチマキとタスキを渡されました。

それはちょっと誇らしく思えました。

体育祭、みんな必死で応援して、結果白組は優勝!!
みんなで飛び上がって喜びました。

団長もムーさんも怖かったけど、本番が近づく頃には、
何だか情が移っていて、私とエトウと渋沢さんと山本さんは、
体育祭の後三年生の教室まで行き、
団長、副団長、ムーさんに花束を渡しました。

みんな驚いていて、感動したのか泣いていました。

鬼の目にも涙とは、この事です。

団長とムーさんには
「ずっと厳しくしてごめんね」と謝られました。

先輩たちはキャピキャピした雰囲気ではなく、
硬派な応援団を貫きたかったんだと思います。
そこにはこの白組応援団に対する誇りや愛も感じました。

こんなキリリとした組は白組だけでした。

副団長だけ優しかったのも、
三年生の幹部全員が怖かったらみんな萎縮してしまうだろうと、
いろいろ考えての事だったのかもしれません。

先輩たちとはその後も年賀状を送ったりと、
在学中は交流が続きました。

嫌だった学校生活の中、唯一心に残る出来事でした。
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