第3話 秘密の楽しみ

文字数 816文字

 早速二次創作が可能なサイトに登録し、一次創作とは全く別のペンネームを考える。原作への酌めども尽きぬ熱い想いを書き散らすだけなので、適当な名前で良い。良いのだが、取りあえず無料で診断出来る姓名判断で使いたい名前の画数や運気を調べてから決める。こんなところでも、何だかんだと拘るオタク気質が発揮されるようだ。
 
 さて、登録が済みいざ書く段階となる。

『あの場面のこのキャラ、実はこんな事考えていたりして……』
『物語にはifの世界戦があるよな。もしかしたらこのキャラがこっちの選択をしたら……こんな展開になるかも……』

 その作品のファン同士、会話するようなつもりで空想を書き綴っていく。言わば、

と作品について語り合うような感じだろうか。執筆している間は、空想の世界にのめり込み、気付けば二時間などあっと言う間に過ぎてしまう。最初、その加減が分からず、主人が帰宅してから漸く我に返って愕然とした事もあった。買い出しにも行っていなかったので、予め作っておいて冷凍保存していた食事が大活躍した。

 ……これは、気をつけないと趣味で廃人になる……

 そのまま行けば確実に訪れるであろう未来に戦慄した。それ以降、二次創作に費やす時間を決め、目覚まし時計をかけるという事を学んだ。

 二次創作が可能な小説投稿サイトでそれを公開してはいるものの、誰かに見て欲しい、感想が欲しいとは思わなかった。むしろ公式にお目零しを頂いてコソコソ楽しませて頂いている身なのだ。一人で楽しむ、それが出来れば良かった。閲覧はほんの少しあるようだが、イイネもブックマークも0のままで構わなかった。むしろその方が良かった。

 どこかに後ろめたい気持ちはあるものの、それだけで満たされ十二分に愉悦に浸れた。それでいい筈だった。

 だが、人間とは欲深い生き物だ。次第に、それだけでは物足りなくなっていく自分にも気づいてはいた。敢えてそこは見ないふりをしてやり過ごした。

 
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