プロット

文字数 2,929文字

起:
 弘前悠斗(ひろさきゆうと)は夏休み、完全自動化社会実験都市「おおとりシティ」に社会科の体験授業(学年単位)の合宿で来ていた。同級生の久々井燕(くぐいつばめ)の父親の会社が作り上げた実験都市で夏休みの1週間、全自動化都市での生活を体験しながら学習しているのだ。
(安全・安心な生活がロボットやドローン、完全自動運転車などによって提供される、未来都市のモデル)

 授業に出るため集合場所の中央ドームへ向かう途中、変な小鳥・インコのブナガに飛びつかれ、右手の指を舐めまくられてしまう。彼の右手は「何かヤバイもんが出ているに違いない」と知り合いに言われるほど、様々な鳥を引きつけるのだ。(変な小鳥は遠目にはセキセイインコに似ているが体はオウムほども大きい。図鑑に載っていない種類だった)

 そこへクラスメイトの絵尺飛彩(えさしひいろ)が壊れたドローンを手に持って現れる。飛彩は「文字の読み書きが出来ない」という障害を持っているためテストの問題や宿題が全く理解できず、同級生の多くから馬鹿にされている。幼なじみの悠斗は、飛彩は記憶力が抜群に良いことを知っていた。飛彩も悠斗の能力を知っていて、お互い鳥好きなので仲が良かった。

 悠斗は壊れたドローンのことを尋ねる。飛彩の説明によると、ドローンがブナガを襲っていたので助けようとして壊してしまったらしい。

 ここ数日、小鳥やペットがドローンに駆除されたり、自動運転車にひかれる事件が発生していて、悠斗達にも「注意するように」というお知らせが来ていた。不安を感じた悠斗はドローンを壊してしまってパニックに陥りそうな飛彩と一緒に交番へ行こうとするが、大型の警備ドローンに攻撃を受け、逃げ惑うことになる。途中、久々井燕と出会うが、彼女がいると飛彩が萎縮してしまうため、担任の先生への連絡を頼んで別れる。

 インコのブナガが、隠れるように指示した植え込みに入ると、そこは「鳥の国」の入り口だった。


承:
<久々井燕、集合場所で担任教師に悠斗達が遅刻すると伝える。担任もクラスメイトも「二人が勝手にトラブルを引き起こした」と決めつけ、「どうせ大したことない。放っておけ」と、何もしない。燕、二人の真剣な様子とドローンの暴走事件のことが気になって、授業を抜け出し探しにいく>

 鳥の国は普段は人の入れない鳥達の楽園であり、避難所でもあった。悠斗と飛彩はそこで鳥達に、完全自動化実験都市が深刻な問題を抱えていることを教えられる。
(絶滅したドードーとか、モアがいる。或は伝説上の鳥。長老または教師役の鳥もいる)

 鳥や動物にぶつかって故障するドローンやロボが後を絶たないため、「おおとりシティ」の安全保障システムは人間以外の生き物を害獣や害鳥とみなし、徹底的に駆除する方針を固めていたのだ。しかも飛彩がブナガを助けた際にドローンを壊したせいで、人間も駆除の対象になってしまった。
(システム内部で深層学習によって得られた結論なので、人間のエンジニアは未だ把握していない)

 話を信じて怯える飛彩(大変なことをしでかした)と、慎重になろうとする悠斗は対立する。そこへ燕が警備ロボに追われて逃げ惑っていると鳥たちが知らせてくる。飛彩は「自分のせいだ」と言って、いつも彼を馬鹿にするから苦手なはずの燕を助けに行く。悠斗もブナガを連れて追いかける。

 悠斗たちは燕を助けて、いったん「鳥の国」に戻った。彼女の話から、「おおとりシティ」ではドローンやロボが人間を襲い始めたと知った悠斗達に、鳥の長老(?)が事態の打開策を教える。「鳥を呼ぶ手」を持つ悠斗ならば、鳥の大群を呼び寄せて人々を救えるのだ。さっそく呪文を教わる悠斗だったが、言葉が難しい上に正しい音程で歌わないといけない為に、なかなか上手くいかない。

 やっと呪文を正しく歌える(詠唱する)ことが出来るようになった時には、人々は中央ドームに追い詰められていた。暴走した警備システムは「有害生物」を一箇所に集めて、一斉に始末しようとしていたのだ。悠斗達は人々を救うため、鳥の国を後にする。

 「おおとりシティ」に戻った悠斗は鳥を呼ぶ呪文「鳥の歌」と(鳥を呼ぶ)右手で鳥の大群を呼び出し、ドームを包囲していたドローン達を排除する。


転:
 燕の説得で、久々井HDの社長は実験都市を放棄して、全員で都市から脱出することを選択する。だが完全自動化都市なので、今や安全な乗り物はない。歩いて逃げ出そうとする人々の行く手を、完全自動運転やリモート操作の重機が塞ぐ。背後からは警備ロボや警備ドローンよりも大型で強力な警察および救急のロボやドローン、車両などが迫って来ていた。

 先ほどの召喚で鳥たちは疲れ切り、ダメージも大きかったため、悠斗が呼び出しても鳥達はやって来ない。絶体絶命のピンチに、インコのブナガが、「別の強力な呪文がある」と言い出した。だが鳥の国で一度、長老(?)が口にしたものの、呪文は長く言葉も難しいので、ブナガですらそれを覚えていなかった。

 飛彩が呪文を記憶していた。だが悠斗は音痴なので歌詞を教えてもらっても、うまく歌えない。燕が協力することにより(悠斗は右手を天に掲げ、飛彩が暗唱し、燕が歌う)、呪文が発動した。

 呼び出されたのはすべての鳥達の祖先、「恐竜」だった!

 恐竜達は荒々しい原始の力で重機や武装されたドローンなどを次々と排除していく。恐竜達は怪我をして血を流しながらも、鳥や獣や人間を守る為に戦う。それを目の当たりにして悠斗達の胸は痛む。
(暴力に対抗して暴力で問題を解決しようとしていることの無理・矛盾。理想は事前の回避)

 恐竜が傷つくたびに涙を流す飛彩に、久々井社長は「君には理解できないかも知れないけれど、人間を救うためには仕方ない」と口にする。燕はその意見に反感を覚え、(自分の事は棚に上げて)父親を責める。「尊くない生命なんてない」「人間は賢いから偉いの? 物を作れるから偉いの? 恐竜は絶滅したから劣っているの? 劣ったものは偉い人の犠牲になってもいいの?」


結:
 戦いが終わる。恐竜達が勝った。だが恐竜のリーダーは、「呼び出しに応じた代価を払え」と言う。彼らにとって最も価値のある物――つまり悠斗の右手――を差し出せ、と(それが嫌なら人を食う?)。

 悠斗は悩んだ挙句、大人達の反対を押し切って右腕を差し出す。そこに飛彩と燕の手が重ねられた。さらにはクラスメイト達までが恐竜のリーダーに向けて右手を差し出す。恐竜は悠斗達の手を舐めて、「うまい! もう、十分味わった」と去って行く。

 後日――久々井社長は記者会見で完全自動化実験都市の継続を発表するが、同時に計画の慎重な見直しも発表する。娘の燕は父親に批判的だが、悠斗と飛彩は実験は進めるべきだと意見する。久々井HDは多くの子供達が自由に述べた意見を収集し、それを真剣に検討してよりよい都市づくりを心がけるようになった。

悠斗が「もう、恐竜を呼ばなくていいってことだ」と口にすると、飛彩が彼に聞こえないように燕の耳に囁いた。「ぼくは呪文を忘れていないけどね」
 燕は声を立てて笑う。「なに?」と聞き返した悠斗の肩には、インコのブナガがいた。

(了)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み