第5話 彩乃と嵐

文字数 1,679文字

 嵐に、蛇夢の達也ママから連絡がきた。
 
 「うちで、会う?金曜日来るって言ってるけど。お昼ごろだけど、仕事大丈夫?」
 
 「いつでもいいです。仕事午後から休みます。」
 
 
 ― 金曜日
 
 「嵐ちゃん、遅かったじゃない。」
 
 「ごめん、会社から慌てて道路に出たら、たまたま、危ない感じの人とぶつかってしまったら、ちょっと絡まれちゃって。」
 
 「やっぱり、まだ、不幸続きなのね。可哀想に。もう彩乃、来てるわよ。」
 
 
 「あんたが、嵐って言うんだ。」
 
 彩乃は、足を組み、灰皿に溜まった吸い殻の上に、また吸い殻を押し付けながら、声をかけてきた。
 
 「あ、はい、斎藤嵐と言います。」
 
 「私は、櫻井彩乃。で、あんたも、あの祠に行ったんだって?」
 
 「そうなんです。一度だけ、行ったんです。でも、お願い事したら、とんでもないことになって。すごい効き目なんです。でももう、大変なんで、何とかしてほしいと思って、また行ってみたんです。そしたら、どこにもなくて。」
 
 「立ってないで、そこ座ってよ。」

 彩乃は、ピンと立っっている嵐を顎で促した。

 「あんたも、そうか、自分も一度行ったはずの場所に、祠が無かったんだ。場所は間違ってないはずなんだけど。でも、道すら無かった。」
 
 「あのう。」

 「何?」

 「あの…もう一度、行ってみたいと思うんだけど。2人で。どうですか?どうしても、また確認してみたいんです。2人の方が、場所が間違ってないということもハッキリすると思うんです。」
 
 嵐は、そう言ったあと、背筋を伸ばし、出された水を一気飲みし、息を止めた。
 
 「良いよ。」
 
 「あ~良かった〜。」
 
 「あら、彩乃ちゃん、随分珍しいわね。人と普通に話してる。」
 
 「えっ、人とって。」
 
 嵐は、達也ママの顔を、こわばった顔で見た。
 
 「この子、動物としか話さないのよ。私も、動物みたいなもんでだしね。」
 
 「えっ、動物と話せるの?」
 
 「やだね、この子は。冗談よ。でも、私以外の人とは、ほとんど話さないね。仕事では違うんだろうけど。」
 
 「仕事って。」
 
 「ママ、余計な事言わないで。」
 
 「いいでしょ。私たちの仕事は胸張って言わなきゃ。隠すから余計偏見で見られるんだよ。」
 
 「水商売よ。」
 
 「あ、そうなんだ。」
 
 「ほら、偏見の塊みたいな顔してる。」
 
 「いえ、そんな…。」
 
 「別にいいけど。慣れてるし。で、いつにする?」
 
 「そうですね。今度の土日なら。」
 
 「じゃあ、日曜日ね。」
 
  二人の様子を見て、達也ママがクスクスと笑っていた。
 
 「ママ、なに笑ってんのよ。」
 
 「いやね。彩乃が、男とどこかに行くなんて、天地がひっくり返るわね。」
 
 「ったく、やってらんないわ。仕事行くわ。じゃ、そういう事でよろしく。」
 
 「嵐ちゃん、大丈夫?顔色悪いわよ。」
 
 「あの、何とも言えない空気感ですね。すごい緊張しました。」
 
 「そうでしょうね。まあ、あの子はね、詳しく話してくれないけど、だいぶ苦労したんだろうね。最初はね、ここに働きたいって来たんだよ。ここがどういうところか、分からないで来たんだね。もちろん、断って知ってるとこ紹介したのよ。でも、なんかほっとけなくてね。時々、こうやって客でもスタッフでもないけどね。なんとなく、ここでおしゃべりしてくのよ。ほんと、喋んない子だったんだけどね、少しずつ心開いてくれたわ。そのうち慣れるわよ。変わった子だけど、良い子よ。仲良くしてあげて。」
 
 「仲良くできるかどうかは、お約束できませんが、これも経験だと思って。」
 
 「あはは、嵐ちゃんも、変わってるかもね。まあ、頑張って。あとね、あなたに憑いている、艶めかしい女性だけど、悪意はあるけど、そんなに殺気を感じないわね。」
 
 「でも悪意って…。怖いよやっぱり。」
 
 「まあ、気を付けて。」
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登場人物紹介

斎藤嵐 

平凡な人生に、物足りず、ある祠のに、何か起きてほしいとお願いをしたところ、災難続きとなる。

無くなっていた祠を追って行くうちに、迷い込んだ過去で、様々人々と出会い、今の自分を知る。

櫻井 彩乃

不幸な人生を送り、人を恨みながら生きている。

ある祠に参拝をしたあと、その祠が無くなった。斎藤嵐とともに、過去に迷い込んでしまう。

見たことのある風景。記憶とは違う真実を知る。

達也ママ

スマック「蛇夢(じゃむ)」のママ。

嵐と彩乃を繋げた良き理解者。

守護霊や、霊が見える。

風間 平和(へいわ)

斎藤嵐の友人。

野崎 雅登 事件記者


5年前の爆発事故で、娘を失い、最近の爆発事故をの関連を追う。

櫻井彩乃と知り合っており、この事故での身元不明で入院している女性との関わりを調べている。

橋本 瑛士 刑事

野崎の友人

野崎とともに、爆発事故の身元不明の女性の身元調査をする。

身元不明の女性

爆発事故で、意識不明で、入院している。

櫻井 彩乃の母である可能性があったが、彩乃の母は15年前に火災で亡くなっていた。

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