#5

エピソード文字数 1,545文字

 早速、二人は社務所へ赴き、人の列が解消するのを見計らって、売り子をしている巫女に声を掛けた。
「子宝神社の宮司さんはいらっしゃいますか?」
「宮司ですか? ご祈祷か何かでしょうか?」
「いえ、僕たちはこの神社にある道祖神と祭神についてお尋ねしたいだけなんです」
 巫女は怪訝な顔をしながらも、奥へ引っ込んでからしばらくして戻ってきた。
「今ご祈祷中ですので、しばらくお待ちください。良かったら待合室がありますから、そこで」
 祈祷が終わるまでの間、クーラーの効いた涼しい待合所の椅子に座って、宮司が来るのを待った。
 十分ほど経っただろうか、さわさわと衣が擦れあう音をさせて、宮司がやってきた。祈祷のための浄衣は脱いでいて、今は白の上衣に浅黄色の袴をはいている。
 のっぺりとした顔つきの特に目立ったところのない男だ。どことなく金満な感じがして、足下に小鬼がしがみついている。
「なんでしょう?」
 宮司にしては小鬼がたかっているなと思いながら立ち上がる。
「この神社にある道祖神と祭神についてお話を伺いたいんです」
 すると、宮司がニコニコと相好を崩した。
「雑誌の取材か何かですか? わたしでよろしければなんでもお訊ねください」
 それを聞き、晶良は困ったように答える。
「すみません。雑誌の取材じゃないんです。個人的に知りたくて」
 宮司があからさまにがっかりした表情を浮かべる。
「でしたら、表の縁起に書いてあるとおりですよ」
「村の人が言うには、サイヒメノミコトとクナト大神は、瓜子姫とあまのじゃくだと聞いて……。それに境内にある道祖神のことも詳しく知りたいんです」」
「はい? 瓜子姫とあまのじゃく? そんなのはわたしは聞いたことがないですね」
「そうですか……、じゃあ、道祖神のことは何か知ってますか」
「道祖神のことですか……」
 なんだか、浮かない顔をするので、晶良は訝しく思った。
「あれには何か由来とか縁起みたいなことはないんですか?」
 晶良たちに興味を失ったような態度で、宮司は投げやりに答えた。
「知りません。わたし、数年前にここに配属されて、道祖神の由来など聞いてないんですよ。あれはもともとここにあったとしか。瓜子姫とかなんとかにしたって、この村のお年寄りの方がよほどこの村について詳しいんじゃないですか? それでは、わたしは次のご祈祷がありますので……」
 取り付く島もなく、宮司は社務所に戻ってしまった。
「なんだか嫌な感じだね……。お金のために神主をやってるって感じ」
 陽向が非難めいた口調でつぶやくと、晶良を見上げた。
「仕方ないです……。確かに宮司さんの言うとおり、八重さんのほうがここのことは詳しいかもしれないですね」
 二人はもう一度双体道祖神のところへ戻り、スマホで写真を撮ると、神社を後にした。
 短い参道の階段を降りながら、晶良は心ここにあらずといった様子でつぶやく。
「おなかが空きました……」
 陽向が、スマホで時間を確かめた。まだお昼前で、神社には三十分もいなかったようだ。
「時間も余ってるし、どっかでお昼食べようか。何食べたい?」
 晶良はほくほくと「何でも食べたいです」と答え、陽向に呆れられる。
「本当に何でもいいなら宿にいったん戻るよ?」
「すぐに食べたいです……」
 陽向が思案げな顔をした後、スマホを弄って、
「この近くにあるのは定食屋さんとおそば屋さんかな」
 と告げた。
「おそばですか! おそばが食べたいです」
「おそばでいいの? 足りる?」
「え? 一杯しか食べたらダメなんですか……?」
 晶良は肩を落とした。
「何杯でも食べていいから。行こ」
 早めの昼飯をとり、正午過ぎに八重の元へ行くことになった。
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登場人物紹介

一宮 晶良(いちのみや あきら)

美貌の、残念な拝み屋。姉からの依頼で行方不明の高木俊一を探しに、岐阜の白山郷を訪れる。

岐(くなぐ)姉弟の営む民宿に滞在し、村に伝わる神隠しの伝説を調査することになり……

常に腹が減っている。

岐 幸姫(くなぐ ゆき)

岐家の長女。ししゃの家と言う屋号を持つ民宿を営んでいる。

24歳くらい。儚げな美人。

弟の久那(ひさな)ととても仲がいい。

岐 久那(くなぐ ひさな)

高校二年。幸姫の弟で、姉に似て美少年。

晶良にとてもなついている。

高木 俊一(たかぎ しゅんいち)

行方不明の男。もともと白山郷の出身。

高木 綾子(たかぎ あやこ)

俊一の妻。夫を探しに晶良とともに白山郷を訪れる。

清水 辰彦(しみず たつひこ)

白山村役場の課長。


浅野 怜治(あさの れいじ)

村立白山小学校の教師で郷土史家。

高木 俊夫(たかぎ としお)

俊一の父。大阪にある会社の代表取締役。白山郷の出身。

佐藤 良信(さとう りょうしん)

栄泉寺の住職。白山郷の言い伝えや歴史に詳しい。

水野 八重(みずの やえ)

村の最年長の老婆。村の言い伝えに詳しい。

田口 光恵(たぐち みつえ)

八重の孫。

堀 聡子(ほり さとこ)

八重のひ孫。

一宮 翡翠(いちのみや ひすい)

晶良の姉。晶良に今回の調査を依頼した。

諏訪 陽向(すわ ひなた)

晶良の友人の妹。大学一年生。

一言主神の巫女。晶良のマネージャー。

泥蛆(でいそ)

人の悪心、嫉妬、殺意、憎悪や、人に取り憑いた子鬼を食らうために、人間に取り憑き、精気を吸ってさらに悪い状態へ持って行く存在。

黄泉から来た。

小鬼(こおに)

人の欲に取り憑く。人間の欲を食べる小物。どこにでもいる。大抵の人間に憑いている。

瓜子姫(うりこひめ)

白山郷の伝承

あまのじゃく

白山郷の伝承

双体道祖神(そうたいどうそしん)

塞ノ神。村の境界にあり、厄災から守る。


白山郷では子宝の神様として祀られている。

白山郷

岐阜県の山間にある小さな村。世界遺産に登録されている。

合掌造りの家屋が有名。

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