『 リツコへ。 第一日 』 (@中学……1年か2年?)

文字数 2,666文字

2006年7月31日 連載(2周目・大地世界物語) コメント (1)



 リツコへ。

 理事長に就任したとの報、聞きました。まずはおめでとう。大人しかったきみが、そういった組織に携さわることになっていたとは少なからぬ驚きだったけれど、たしかに僕はきみを覚えていました。よく気にいった本を貸してくれたりしてましたよね。給食の時間いっしょに食べましたよね。
もう大昔のことです。
 きみが、キヨセ律子が、(ごめんなさい字を忘れました)、そちらの、代表としてこの大地世界を訪れたいと言っていると、マーシャ……旧名、有澄真里砂……から聞かされた時には、僕は、まだ小学生だったあのきみにもう一度会えるものだと一瞬なつかしく、それから、地球という世界における50年という歳月の意味を思い出して、おばさん(失礼!)になったきみを想像するのに苦労をしていました。ところが門を抜けて姿をあらわしたのは、ぼくの記憶にあるままの、頭に白いリボンをつけた女の子だったわけです。
(※>p.2.)きみの、息子さんの、お嬢さん……孫、ですね、つまり……タカハラのほうの律子、責任を持ってお預かりします。僕自身にかえても次の月踊の蝕には再び門の前へお返ししますので、安心して下さい。……もっとも、この手紙はその高原律子ちゃんへ託すわけですから、このノートが手元へ届いた時には、僕の言葉は実証されているわけですが。
 それにしても、ほんとうにきみにそっくりです。僕自身がまだ少年と言って通る外見でいるうちに、かつての幼ななじみに、僕の妹で通るようなのようなとしの、孫がいるとは!!
 ……かつて決裂の3マグチュアリ(大歴または上歴とでも訳せばいいでしょうか、1マグチュアリは約4000年にあたります。)の昔以来、相似た文化と文明を持っていたはずのダレムアス(大いなる母神ダーレム=大地、の世界ウアス)と地球(ティカーセル)(ころがる世界ティクス・ウワセル)が何故ここまで違ってしまったか。結論はここにつきるような気がします。
 神を喪った地球の人類は、世代交代が早い!!
 現代医学、なる術のすべてをつくしても僕がいたころの平均寿命の公称は男女とも80歳前後だったと思います。先進国の日本で、です。一方ダレムアスでは病気や事故で(ご存知の通りこれに近年は "戦争" が加わりますが)でなく200歳を迎える前に死ぬ者というのは、ごく稀なのではないでしょうか。 "統計" だの "戸籍調査" だのは、そもそも概念からしてありませんから正確かつ科学的なことは何も言えないのですが。つけ加えるならマルクワス(王族、つまりダレムアスにおける創世主、女神マリアンディアの子孫)の直系であるマーシャなどは、前例からして400年前後はかるく生きるのではないでしょうか?
 
 なにはともあれ、タカハラのほうの律子、責任をもってお預かりします。僕自身にかえても次の月踊の蝕には再び門の前へお返ししますので、安心して下さい……もっともこの手紙はその高原律子ちゃんへ託すわけですから、手元へ届いた時には僕の言葉は実証されているわけですが。
 
         今日は見張り番の時間ですので、このへんで。
 
 
 
   第二日、

 孫のほうの律子嬢はよく眠れたようです。 "リツコ" という音はダレムアスの言語体系にはなじみにくいもので、早速に愛称がつきました。 "リーツ" 。平野にいる小動物です。このあたりでは見られないようなので絵に描いて説明したところ、本人も気にいってくれた様で、ふだん、口語で呼ぶときにはこれに接頭の美辞がついて "マリーツ" になります。
 
 それにしても、そちらから律子=マリーツに託された "さし入れ" がこのノートと筆記用具だった、という事実! ……あいかわらずの洞察力ですね。朝日ヶ森は。
 たしかにダレムアスには、紙の製法は知られていないわけではないのですですが、あまり流布していません。街道をゆく隊商や一部の商人は和紙と不織布のあいのこのようなものを帳簿として使っていますが、一般のダレムアトは "樹が泣く" と言って、そのような加工法を好みません。昔の日本画のように絹布をその都度洗いなおして使うか、木簡、石板、あるいは交易路ぞいではイムエレ樹の広葉。ダレムアスにおける文盲率はいたって低いのですが、おおむね、 "すぐに消すものなら書く必要はない" 式の、口頭伝達の方が好まれます。優れた記憶力であるからこそでしょう。
 
 で、話は戻りますが、朝日ヶ森の洞察力と親切が、しっかり下心に裏打ちされたものであることも忘れていませんでしたよ、僕らは。どうせこちらに "物書きぐせ" があるのを見込しての(ずい分長いあいだ忘れてましたが!)ことでしょう。それに、こちらの国内で広く保存・利用するには、シャーペン、消ゴム、安価な紙、という三種の神器は、文明のレベルも文化の質も違いすぎるものですし。

 暗黙裡の御要望通り情報入力の後、そちらの世界へお返し致します。
三者協議の結果、マーシャはダレムアスの代表たる女王の公文書として、ダレムアスの歴史(神話と)のあらましと現在の地誌、情勢、それらを含んだ対地球との関係をどうありたいと望んでいるか……を、雄輝は将軍メイデリオの資格でもっぱら現在の対 "地球・ボルドム連合軍" 戦争の経緯を、そして僕は、あくまでも在地の地球人として僕ら3人自身のこと、こちらでの文化・生活など気づいた事をルポとして片はしから補足する……という分担が決まりました。
 まぁ実際には、身辺雑記を兼ね、私信を兼ねているのは御覧の通りです。
 なにしろ日本語で長文など書くのは数十年ぶり(たいていは3人で話す時にでもダレムアナロクです……地球の言語類は、まぁ "暗号" ですね)、間違いがいっぱいあると思います。
 あと、残りのノートは 3人協同で、ダレムアナロク<>日、英、の、簡易文法書と主要語辞書をあむことになるでしょう。出来上がりがいつになるかは判りませんが。






(初出) https://puboo.jp/bib/i/?book=109779.epub
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