第11話

文字数 1,029文字

中学3年。

町は本当に寂れてしまった。

冬はまだスキー客が来るけれど、夏の賑わいはもう全く感じられない。


近くの学校は去年隣の学校と合併したから、私たちは学校までバスで通った。

怜奈は小学校を卒業すると、町の外の学校の寮に入り、私たちは顔を合わすことはなくなった。

類からは時々絵ハガキが届く。

私からも何度か出した。

類から届くハガキの中の世界は私にはまぶしかった。
それに対して私が書けるのは、狭い狭いこの町の毎日のことくらいしかない。

私は類をずっと思い続けていた。
類の夢を何度もみた。

類なんて、本当に存在していたのかな。

あんなに綺麗な、優しい男の子。

やっぱり、あの3年間は夢だったんじゃないだろうか。


いつの間にか、そんな風に考えるようになった。

テレビから流れる昭和の懐かしい歌謡曲。
都会へ出た彼氏が戻らず、ただ彼氏の帰りを待つ女心の歌詞が私の心をぎゅっとつかんだ。

ハガキが届くだけの3年間は長くて、やっぱり類はもう戻ってこないのだと感じて涙が出そうになった。



高校2年生になった。

私は町から通える範囲の高校を選び、類はやっぱり戻ってこなかった。

怜奈は町に戻ってきて、ここから通える範囲の学校へ進学した。

この頃には類は幻だったのだと思うようにしていた。
そうでないと、寂しさに負けて涙が出てきてしまうから。
どんな人でも類と比べてしまい、好きな人さえできないままだった。

時々届くハガキに小さくときめき、返事を書く日々は変わらない。

それだけが私と類をつないでいた。

子どもの頃の充実した毎日が、消えてゆく。
類との思い出は、嫌でも色褪せてゆく。

もうすぐ進路を決めないとならないのに、
寂れた町の中で、私は自分の未来さえ見えないでいた。

明日という日に未来を繋ぐことができない。
明日はきっと今日と同じ、今日は昨日と同じことの繰り返しだ。

…名前負け。

類は、どんな未来を描いているんだろう。

どんな未来を描いていても、そこに私はいない。



そんな風に思っていたとき、類から何度目かの絵はがきが届いた。

来年、ここに来るつもりだと書いてある。

…類に、会える…?

初めて類を見た日のことが甦る。
息が、止まりそうで、手も震える。

でも、叫び出したいくらい、嬉しい。

どうしようもなくて、ハガキを持ったまま、家を飛び出して走って神社へ向かった。

類。
類が、戻ってくる。
類が、戻ってくる。

類が…!

『大人になって、絶対戻ってくるよ。』

この町を見渡せる神社に立って、あの日の類の声が甦り、嬉しいのに涙が止まらなかった。



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