第7話 霧矢陽佳

文字数 5,080文字

 泣き止んだのはいいが、さっきから黙ったままだ。
 やっぱり思考読まれてたのかな?
 向こうから突っ込まれる前に話の起動を変えよう。

「落ち着いた所で聞きたいんだけど、陽佳さんとは何を話してたの? 随分と慌ててたみたいだけど?」

 どうだ! 見事に話題を逸らしてやったぞ!

「えっと……」

 俺の顔をチラチラみて言葉に詰まっている。
 やっぱり聞いちゃマズイ話だったのか。

「いや、悪い。極秘情報とかだった?」
「ううん、そういうんじゃないんだけど」

 秘密の類ではないのか。
 というか、さっきから俺の事見過ぎじゃないですか?
 もしかして俺に惚れちゃった?
 自分でもいい事言ったとおもったし、無理はない。

「さっきの電話の内容を話す前にはっきりさせておきたい事があるんだけどいい?」
「いいよ、何?」
「私のこと、どう思ってる? 好き? 嫌い?」

 質問の意図がわからない。

「電話の内容と関係すること?」

 質問の意図は分からないが、恐らく電話の内容と関係しているだろう。

「ええ。ただ正樹が私の事をどう思っているか知りたいのは私の我儘ね」

 何て答えればいいのだろう。

 『好きでもなく、嫌いでもない』

 これが昨日までの回答だろう。

 だが、今日、俺は鞘華について色々知った。
 同じスキル持ちで同じような研究所での缶詰生活の過去。学校では見れない彼女の素の部分を沢山た。

 そして何より鞘華は俺に生きる希望を与えてくれていた。
 そして、初恋の女の子。

 俺は今でも初恋の女の子を好きなのだろうか?
 鞘華の事を好きなのだろうか?

「私の初恋の子は、研究所で見た男の子なの」

 俺が自分の気持ちに自問自答していると鞘華の口から爆弾発言が出た。

「私が何で正樹の監視役をやってたかわかる?」

 今の俺には分かってしまう。

「初恋の男の子の傍に居たかったから自分で志願したの」

 その先を聞いたら引き返せない気がしたが止める気はなかった。

「私は、霧矢正樹が好き! 初めて見た時からずっとずっと好きなの!
だから、正樹の気持ちを教えてください」

 俺の目を真っすぐ見据えた、心のこもった愛の告白だった。
 だから、誤魔化さず正直に答えよう。

「俺の初恋は、研究所で陽佳さんが見せてくれた、俺に頑張れと言ってくれた女の子だ。その子に幻滅されないように、そして将来その子を自分が守る為に研究所の生活を頑張れた。凄く感謝してる」

 今の言葉を聞いて鞘華の顔がパァッと明るくなる。

「でも、鞘華の事を好きと聞かれると正直わからない」
「えっ?」

 鞘華の顔が曇る

「鞘華はずっと俺の事を見てくれていたけど、鞘華が俺の初恋の相手だったって知ったのはついさっきだ。俺はまだ委員長としての鞘華しか知らない。委員長に対しての気持ちは正直に言うと、好きでもないけど嫌いでもない。ただのクラスメイトとしか思っていなかった。でも今日、鞘華の素と接する事が出来た。凄く可愛いと思った。それに鞘華はスタイルいいし、魅力的だと思う。最初二人きりになったとき、エロイ事ばかり頭をよぎった。さっき鞘華の頭を抱いてる時もいい匂いするなぁとかかんがえちゃったし、それに「ちょっと待って!?」」

 鞘華が大きめの声で割り込んでくる。

「結局どう言う事なの? って言うか最後の方おかしくなってたし」
「好き、になりつつある。ごめん、こんな情けない返事しかできなくて」

 自分でも情けなくなる。きっと鞘華もそう思ってるだろうな。

「そっか。そうだよね。クラスでは正樹に散々な態度取ってたわけだし」

 落ち込むか怒るかすると思ったが、その様子は見られない。
 それどころか少し嬉しそうにもみえる。

「でも、今日私と話したり過去を知ったりして好きになりつつあると?」
「うん」
「私でエッチな事考えちゃう位には好きってことよね?」
「ま、まぁ」

 何? この羞恥プレイ!
 女の子にあなたでエロい事考えましたって言わせるとか普通ならドン引きだよ!
 でも俺が先にエロい事考えましたって言っちゃったからね! 自業自得だ。
 鞘華は鞘華でさっきから

「なるほどなるほど」

 とか一人で何やら納得してるし。
 自分がエロい身体してる自覚があったのだろうか?

「ねぇ、正樹」

 ふと、声を掛けられた。

「どうした?」
「これから大好きになって貰う為にどんどんアタックしてくから覚悟しててね!」

 満面の笑顔で言い放った。
 俺も鞘華の気持ちにきちんと答えないとな。
 そう密かに決意していると

「じゃあ早速、キスしましょ?」

 さすがにアタック強すぎじゃないですかね?

「いきなりすぎるだろ!」

 さすがに突っ込んだ。
 アタックと言っても他にも手はあるだろう。

「違う違う、これには訳があるのよ」

 ブンブンと手を振って否定している。
 告白されたからだろうか、その仕草が可愛く見える。
 早速意識しちゃってんじゃねぇか。

「さっきお義母さんと話してたでしょ? その内容が正樹とキスする事だったのよ」

 どんな内容だよ! しかもお母さんのイントネーシュン若干おかしかったような?

「とりあえずちゃんと説明してくれないか?」

 キスが嫌な訳ではないが、というかめっちゃしたい!
 だからと言って理由も無く付き合ってすらいないのだから、はい分かりました。
 と、ホイホイする訳にはいかない。

 「まず初めに、正樹に能力を封じる封印がしてあるのは知ってるわよね?」
 「ああ」

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 俺の力は使う方向性を間違えれば世界なんて簡単に滅亡してしまう。
 だからこそ研究所に買われ、監禁生活をさせられていた。

 その反面、研究者達は人工的に俺と同じような能力を発現させられないかと考え、俺をモルモットのように扱い人間としての俺の尊厳はなかった。

 能力を使って復讐してやろうかと何度もおもった。
 でも実行しなかった。いや、実行出来なかったが正しい。

 怖かったのだ。
 人を殺すのが怖かった訳じゃない。

 陽佳さんに軽蔑されるのが怖かった。
 買われた当初は実の両親を恨み、養子として俺を引き取った陽佳さんも恨んでいた。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、幽閉されている俺の所へ陽佳さんはやって来て、他愛のない話をしていった。

 月日が経ち、俺は陽佳さんと話す時間が楽しみになっていた。
 当初の恨みなど全くなく、陽佳さんと話している時間だけが心を落ち着かせた。

 色々な話をした。
 今日はどんな実験したか、どんな人と話したか、勉強が分からないから教えて欲しいといった、ありふれた他愛のない話。

 陽佳さんはもう俺の中で家族になっていた。
 復讐をする事で、陽佳さんに、家族に軽蔑されるのが怖くて復讐を諦めた。

 ある日、俺は陽佳さんに愚痴、というよりも泣き言を口にした。
 なぜ俺にこんな能力があるんだ! 能力なんて欲しくない! 普通に学校に行って、普通に友達を作って、普通に暮らしたい!心からの叫びだった。

 そんな俺の言葉を聞いた陽佳さんが少し微笑んだあと

「わかった。陽佳お姉さんに任せなさい!」

 と、言って部屋を出ていった。
 それから数か月、陽佳さんは俺の所に姿を現さなかった。

 再び俺の所に来たのは約半年が過ぎた頃だった。
 久しぶりに俺の所に来た陽佳さんの手には機械のような帽子を持っていた。
 機械の帽子を俺に被せ、小声で話しかけてきた。

「前に見せた写真の女の子の事は好き?」
「好きか嫌いかで言われたら好きです」
「良かった。それじゃあ、その気持ちを確認しながら正樹の能力を使って欲しいの」
「いいんですか?」
「大丈夫! お姉さんに任せなさいって言ったでしょ?」
「わかった。何に対して能力を使えばいいの?」
「自分の能力を封じる事を考えて能力を使って」
「能力を封じるなんてできるの?」
「私の事を信じてやってみて」
「わかった」
 


 過去に能力を消そうと自分に能力を使った事はあったが失敗している。
 でも陽佳さんは私を信じてと言った。
 俺は陽佳さんの言われた通りにする。
 写真の女の子のことを考えながら能力を使った。
 それを何回かやった後に陽佳さんが訪ねてくる。

「何か体に異変は無い?」
「特に何ともない。やっぱり失敗だったんじゃ」
「少しテストしましょう。この石を金塊に変えてみて?」

 言われた通りに能力を使う。
 石は金塊になった。
 やっぱり失敗だったと落ち込んでいると

「次はこの金塊を真上に投げるからそれを向こうの壁の真ん中に当ててみて」

 陽佳さんが次々と能力を使うように行ってくる。
 何回か続けたあと異変が起きた。

「やった! 成功したわ! でも五回かぁ。まぁ、しょうがないか」

 陽佳さんは子供のようにぴょんぴょん跳ねながら喜んでいた。
 能力を使った俺は驚愕していた。

 確かに能力を使ったはずだ。
 しかし、木製の椅子を革製の椅子に変えろと言われ能力を使ったが、椅子は元のままだった。

 失敗した? しかし今まで失敗した事等一度もない。
 俺が不思議そうにしていると

「まだ分かんない? じゃあ、今度は椅子の色を変えてみて」

 言われた通りに色を変えようと能力を使う。
 しかし、また何も変化しなかった。
 俺はたまらず陽佳さんに説明を求めた。

「どうなってるんですか? 今まで失敗なんてした事無いのに」
「聞いたらビックリするわよ。心の準備はいい?」
「はい、大丈夫です」
「えっとね~、正樹の能力を封印しちゃいましたー!」
「え? えええ? ほ、本当ですか?」
「もっちのろん! 椅子には何の変化も無いでしょう?」
「確かにそうですけど、ただ失敗しただけなんじゃ」
「じゃあもう一回試してみて。そこの小石を金に変えてみて」

 一番最初と同じ内容だから失敗なんてするはずがない。
 しかし小石は金に変わる事はなかった。

「どう? 変えられなかったでしょ?」

 ドヤ顔で言ってくる。
 もしかして本当に能力を封印できたのか?

「封印できたって事ですか?」
「そうよ、さっきから言ってるじゃない」

 能力を封印したなんて……。
 そりゃドヤ顔にもなる。

「一体どうやって……っ! さっきの機械ですか?」
「大当たりー! でも半分不正解。ブブーッ」

 腕でバッテンを作っている。
 少しイラッとした。

「簡単に説明すると、機械で正樹の頭の中に電気を流して、写真の女の子への強い気持ちを能力をつかさどってる所にぶつけて働きを制御したの」

 ちょっと何を言ってるのか分からない。
 分からないけど能力が使えなくなったのは本当だ。
 陽佳さんは研究者じゃなかったはずなのにこんな物作るなんて天才じゃないか!

「でも、完全に封印は出来なかった。」
「そうなの?」
「正樹が能力を使えなくなるまで五回かかった。つまり、五回までは能力が使えてしまうのよ」

 なるほど、それでさっき何回も能力をつかわされたのか。
 それでも俺には奇跡の様に感じる。

「あと、能力の制限も掛かっているはずよ。今まで能力の対象はほぼ無限だったのが一回につき一つの事象だけになってるわ」
「そんな事まで」
「ここまではいいわね?」
「ああ」
「ここからが重要なんだけど、正樹の封印を解除する事ができるの。でも正樹自身では解除は出来ない。封印を解くには鍵が必要なの」
「鍵?」
「今は深く考えなくていいわ。そのうち分かる日が来る」
「俺は封印は解かなくていいと思ってるからどうでもいい」
「私もずっと封印される事を願うわ」
「そうですか」
「恐らく正樹の能力を封印した事で研究所は無くなると思う。その時は正樹の自由に生きなさい。普通の人として」

 後日、陽佳さんの言った通りになった。
 俺の能力の成功率が大幅に下がった事と、一日五回しか能力が使えなくなった事で研究所はパニックになった。

 そして今まで俺の能力を嵩に資金を仕入れていた他の研究所や国からも資金援助が無くなり、研究所が無くなることになったのだ。
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