第一話 始動・前編
文字数 1,535文字
富山県のとある神社にて、その話し合いが終わった。
「……意志は変えないつもりか。なら仕方ない」
この住職は、多くの修行者を見てきた。だが今眼前にいる者は、その中で一番若い。
「はい。私は止まる気はありませんよ」
四條 真織 はその考えを最後まで捨てなかった。だから孤児院を一人飛び出し、勝手に神社に向かうと、巡礼の許可をもらいに来たのである。
「しかし、だな…。まだ高校もろくに卒業してないだろう? そんな年齢で大丈夫か?」
「何も心配などいりませんよ。そもそも学歴なんてクソくらえでしょう? 神代にとっては。実力だけが生きるための武器。そういう世界にあなたも身を投じてきた。違います?」
違わない、と住職は答えた。霊能力者にとって、肩書など何の意味もなさない。必要な情報は、今までに何をしてきたか、その実績だけ。それは住職もわかっていた。
「では、許可しよう。君に第一歩を踏み出すことを。神代には私から連絡を入れておく。孤児院にもだ。君が電話をすれば、必ず帰って来いって言われるだろうからな、私が説得しておこう」
この言葉に真織はガッツポーズをした。そして霊能力者ネットワークのコピーをもらう。真織の名前はまだない。これから最新版が刷られ、そこに名前が載る予定なのだ。
「ではでは、私はこれにて。世界が待っていますので」
「待ちなさい。どこに行くか、決めているのかね?」
「いいえ。コンパスは持たない主義なのです」
「それはちょっと許容できんな…。そうだ! 月見の塔に行ってごらん。ここからなら近いし、すぐに着くはずだ」
月見の塔。聞きなれない言葉に真織は困惑した。だが住職によれば、ここから歩いて二時間程度の距離らしい。地図ももらって場所を確認する。記載はされていないので、目的地を書き込んでもらう。
「それは、何でしょう?」
「ん? 知らんのかね? 先の戦争の、戦没者を弔っている塔だよ。霊能力者なら誰でも知っていると思ったが…」
真織はその、例外だった。しかし、それも無理はない。真織は世代ではないのだ。生まれる前の戦争、知っている方が不気味かもしれない。
「すると、第二次世界大戦、でしたっけ? 随分と昔の話をぶっこんできますね。ええっと、爆撃に遭われたんでしょうか、その月見とやらは?」
「本当に何も、知らんのか…?」
住職はその、戦争について述べた。
「神代はな、表では塾とか、君がいた孤児院とか経営して善人ぶってはいるが…その本性は血墨まみれの黒だ。日本中の霊能力者を牛耳るためなら、反対勢力は根こそぎ絶ってしまっても構わない。そんな考えが最初にあった。今はだいぶ落ち着いているようだが…。いつぶり返してもおかしくはないだろう。海の向こうに手が伸びないことを祈るばかりだ」
その戦争。それはかつてこの日本に存在した霊能力者の集団を抹殺した、闇の日本史だった。表社会には絶対に知られないだろう記録だ。その戦争が終結した後、それに関わったある者によって建てられたのが月見の塔である。その塔には慰霊の意と、滅ぼされるまで繁栄を続けた敬意が込められているのだ。
「そこには、何があるのです?」
「何も」
住職は言う。ただ、慰霊碑があるだけだと。もうその周辺には、誰も住んでいないことも伝えた。
「ふーん。面白くはなさそうです、が! 行ってみる価値はありそうですね…。その戦争のことは初めて知りましたし、勉強にはもってこいの機会」
そして真織は神社を出る。目的地は、月見の塔。そこで何を得られるかはわからないが、行くべき気がしたのだ。
「運命に導かれた、とでもいいましょうか? この世界に神がいるなら、そう仕込んでいたのです」
足取りは、やけに軽かった。まるでピクニックか何かに出かけているかのようだ。
「……意志は変えないつもりか。なら仕方ない」
この住職は、多くの修行者を見てきた。だが今眼前にいる者は、その中で一番若い。
「はい。私は止まる気はありませんよ」
「しかし、だな…。まだ高校もろくに卒業してないだろう? そんな年齢で大丈夫か?」
「何も心配などいりませんよ。そもそも学歴なんてクソくらえでしょう? 神代にとっては。実力だけが生きるための武器。そういう世界にあなたも身を投じてきた。違います?」
違わない、と住職は答えた。霊能力者にとって、肩書など何の意味もなさない。必要な情報は、今までに何をしてきたか、その実績だけ。それは住職もわかっていた。
「では、許可しよう。君に第一歩を踏み出すことを。神代には私から連絡を入れておく。孤児院にもだ。君が電話をすれば、必ず帰って来いって言われるだろうからな、私が説得しておこう」
この言葉に真織はガッツポーズをした。そして霊能力者ネットワークのコピーをもらう。真織の名前はまだない。これから最新版が刷られ、そこに名前が載る予定なのだ。
「ではでは、私はこれにて。世界が待っていますので」
「待ちなさい。どこに行くか、決めているのかね?」
「いいえ。コンパスは持たない主義なのです」
「それはちょっと許容できんな…。そうだ! 月見の塔に行ってごらん。ここからなら近いし、すぐに着くはずだ」
月見の塔。聞きなれない言葉に真織は困惑した。だが住職によれば、ここから歩いて二時間程度の距離らしい。地図ももらって場所を確認する。記載はされていないので、目的地を書き込んでもらう。
「それは、何でしょう?」
「ん? 知らんのかね? 先の戦争の、戦没者を弔っている塔だよ。霊能力者なら誰でも知っていると思ったが…」
真織はその、例外だった。しかし、それも無理はない。真織は世代ではないのだ。生まれる前の戦争、知っている方が不気味かもしれない。
「すると、第二次世界大戦、でしたっけ? 随分と昔の話をぶっこんできますね。ええっと、爆撃に遭われたんでしょうか、その月見とやらは?」
「本当に何も、知らんのか…?」
住職はその、戦争について述べた。
「神代はな、表では塾とか、君がいた孤児院とか経営して善人ぶってはいるが…その本性は血墨まみれの黒だ。日本中の霊能力者を牛耳るためなら、反対勢力は根こそぎ絶ってしまっても構わない。そんな考えが最初にあった。今はだいぶ落ち着いているようだが…。いつぶり返してもおかしくはないだろう。海の向こうに手が伸びないことを祈るばかりだ」
その戦争。それはかつてこの日本に存在した霊能力者の集団を抹殺した、闇の日本史だった。表社会には絶対に知られないだろう記録だ。その戦争が終結した後、それに関わったある者によって建てられたのが月見の塔である。その塔には慰霊の意と、滅ぼされるまで繁栄を続けた敬意が込められているのだ。
「そこには、何があるのです?」
「何も」
住職は言う。ただ、慰霊碑があるだけだと。もうその周辺には、誰も住んでいないことも伝えた。
「ふーん。面白くはなさそうです、が! 行ってみる価値はありそうですね…。その戦争のことは初めて知りましたし、勉強にはもってこいの機会」
そして真織は神社を出る。目的地は、月見の塔。そこで何を得られるかはわからないが、行くべき気がしたのだ。
「運命に導かれた、とでもいいましょうか? この世界に神がいるなら、そう仕込んでいたのです」
足取りは、やけに軽かった。まるでピクニックか何かに出かけているかのようだ。