Ｃｈａｐｔｅｒ２．　Ｆｒｉｄａｙ－Ｎｉｇｈｔ　Ｐａｒｔｙ　

「輝台さん、今日の夜は家にいますよね？」

「何で断定形なんだよ。まあいるけど」

取引先からの帰社途中、美良が謎の質問を飛ばしてきた。これを聞かれる時は、外食に誘われるか我が家にゲームをしに来る時と相場が決まっている。

「じゃあ今夜はゲームデーで。二人分の牛丼持参するんで、七時半からよろしくお願いします！」

「いいよ、俺作るから」

同じアパートに住んでいると知られて以降、金曜の夜限定でちょいちょい遊びに来るようになり、我が家にはいつでも牛丼を出せるよう必要具材が常備されている。我ながらアホだと思うが、彼が牛丼を頬張る姿は不思議と元気をもらえる気がして楽しみな瞬間なのだった。

「それにしても美良。今日は給料日直後の金曜だぞ。友達と遊ぶとか、恋人とゆっくりするとか、もっと他にやることがあるだろう若者よ」

「友達は調整つかずで会えないですし、恋人いないんでゆっくりもないです。もしかして、自分とゲームするのイヤなんですか？」

「そういう意味でいったわけじゃないけどさ」

「よかったです。じゃあ、思う存分二人だけの時間を満喫しましょうね」

「大いなる語弊があるぞ美良」

もちろん、帰社後の業務は超高速で仕上げ定時に上がった。

＊

その夜、定刻通りに家のチャイムが鳴る。玄関を開けるとゲーム機と洋服をいっしょくたに抱えた美良の姿があった。

「え、なんでスーツのままなの？」

彼はのんびりと玄関に入りながらゲーム機をこちらに預ける。

「部屋の片付けしてたらシャワー浴びる時間なくて着替えられなかったんですよね。すみません、シャワーお借りします」

「いやなんで集合時間の方を優先するかな。仕事じゃないんだし、その旨メッセージくれたらいいだけなのに」

「なんか輝台さんのシャンプーいい匂いしそうなんで大量に使ってみたいと思って」

「適量でよろしく」

「はーい」

美良の感性は独特な部分があり、いまだによく掴めないでいる。まあ、何はともあれ浴室を掃除しておいてよかった。ゲーム機をリビングに設置して、牛丼を作り始める。

彼が我が家に通い始めたきっかけは、とある質問からだった。

「輝台さんちって、テレビ大きいですか？」

映画鑑賞を楽しめるよう五十インチのものを使っているのだが、彼曰くそれはパーティーゲーム向きのサイズだそうだ。よくはわからないが、対戦結果に一喜一憂しつつ無邪気にはしゃぐ様子を目の当たりにする度に、より大きいサイズへの買い替えを検討してしまうのだった。

出来上がった牛丼とサラダ、味噌汁をダイニングテーブルにセットすると、ちょうどシャワーからあがった美良が真っ直ぐ引き寄せられてきた。

「いい香りしますね」

「いつものだよ」

と言いつつも、今日は上質な味わいを楽しめることが確約されている。だが、奮発して美味しい牛肉をお取り寄せしたなんて言えない。そして案の定、彼は一口頬張っただけで満足そうに口角を引き上げた。

「やっぱり牛丼は世界一美味しいですよね！」

「ここはコックの腕前を褒めるとこだぞ」

「あ、そうでした。輝台さんはきっといい奥さんになりますね！」

「せめて旦那と言ってくれ」