8.少女の話-これまで

文字数 967文字

 あの頃から少しだけ大人になって。
 あの頃を客観的に見れるようになって。
 あの頃を怖いものとして見ないようになって。
 少し、経ちます。
 祖母は今も現役の物語演者です。父と母は物語徴収人としてお城で勤めています。無名の家の出である二人が、役人として取り立てられたのはこの国でも珍しいことでした。しばらく周りが賑やかだったことを覚えています。
 物語徴収人とは、国で演じられる物語のスケジュール管理、それが問題なく神の心に届いたかを、吐き出される魔法の品の数や神の心の輝きの変化等で計測・判断。
 そこから演者達に割り振る報酬等を算出し、国王に提出するお仕事です。
 また、物語自体に齟齬や問題が発生していた場合には、演者と直接面談する事もあります。
 母はシンデレラの継母役として能力を買われた人でした。家でも口調の厳しい人だったけれど、あれは役に入るためのデモンストレーションだったのかもしれないと思います。他人にも自分にも厳しく、私は彼女のことしてしっかりとした大人である事をよく求められました。
 母の娘なのだから、いずれは名のある演者にならねばならないと。そう言われて育てられました。
 私にとってそれは苦痛ではなく、むしろ嬉しい事でした。自分に一番近しい人が、自分の能力を一番期待して認めてくれている。
 私は歯を食いしばって努力したし、母の期待に応えようとしてきました。それは少しずつだったけれど、形になってきました。
 学校での高い成績、何らかの賞を取った時。母は普段の口調とは違い、手放しに私を褒めてくれます。
 そして私も、自分自身で演じられる物事が増えることは喜びでした。
 他者からの期待に応えること。
 他者から与えられた愛情を、返せる自分自身。
 成し遂げた後、鏡で見る自分は......本当に、輝いて見えました。努力すればするだけ自分自身を好きになれる。その過程で周りもどんどん幸せになっていく。
 いつか実際に演じることが、待ち遠しくて仕方ありませんでした。

 演じる事が好きになればなるほど、あることを思い出す機会も増えました。
 私がもう少し小さい頃。
 初めて見た、あの失敗した物語の光景を。

 物語で人が不幸になる瞬間。
 そして、
「君のせいじゃない、本当に。だから泣かないで」
 それを一人の責任として押し付けなかった、狼さんの事を。
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