第6回:ひーちゃんはお揃い

文字数 1,938文字

 ハロウィンが過ぎれば冬であり。クリスマスシーズン到来である。よりにもよってこの年のクリスマスイブは土曜日だ(つまり翌日は日曜日)。カオス! 全国各地でイチャイチャ祭り。クリスマスはそういう日ではないはずだが、昼も短ければ寒くもあるのだから、人肌が恋しかろう。
 まー私らは既に相思相愛なことはわかっているもので今更でもなく、二人揃って過ごすのはいうまでもない。他方の来るべき年末年始、アカネは大阪に帰省どころか、こちらで仕事だという。書き入れどきのクリスマスを休むかわりにシフトがガッツリ入ったうえに、年越しでバイト入れてん、というのだから、二人で年またぎすらも不可能だ。アカネには、寝る時間くらいしかないだろう。ワンルームだとはいえ賃貸マンションの家賃も高いだろうから、さもありなむ、というところ。
 とにかくクリスマスイブ。この日はアカネのほうが私のマンションに来ることに決まっていた。都心から遠いとはいえ、ぶっちゃけ私の部屋のほうが広くて過ごしやすい。アカネのワンルームに長居するのは、無理とまではいわないが二人では手狭である。シングルベッドがあるので部屋のスペースがほとんどなくなり、テーブルは折り畳みコタツなくらいだから、寝る以前の時点でキツい。
 二人

のクリスマスを本格的に過ごせるのは今回が初めて。なので、飲食物の買い揃えをはじめ、クリスマスの飾りつけやらにまで精を出した。もちろんクリスマスプレゼントも用意した。もう結婚したつもりでいるので遠慮もない。これもそのうち、同じ家のなかにある物になるからである。
 このときのクリスマスイブが寒い一日になったことはよく憶えている。
「わぁ! メリークリスマス! わぁ!」
「メリークリスマス! わぁ!」
 謎の未開の部族みたいで、あいかわらずアホである。
 アカネは茶色のロングコート(だが正直に言ってダサいの)を着てきていた。例年が異常な暑さの夏には短くしていた髪も、もうすっかり長くなって、冬の寒さ向きだ。玄関にあがってバッグを置いて早々アカネは、
「ウチからのクリスマスプレゼントですッ!」
 バグワァッ!
 コートの前面を開いたさながら露出癖の人みたいに。
「うわッ」思わず声が出た。
 中身は全裸……でもいけないわけではなかったのだが(※注:ここは恋人の自宅です)、
「うわー、懐かしいなあ。これ、

やん」
 中身はアイドル時代のユニフォーム(を着たアカネ)だった。
「どうどう?」
「この衣裳、まだ持ってたんやぁ」
「せやねん、事務所やめるときに記念やて、くれてん」
「わぁ……可愛いなあ」
 赤と白を基調にしたユニフォームは、サンタクロースの(コカ・コーラの)カラーだ。タンクトップのようなトップスの上に、白いパンツスーツになっている。しかしその白いジャケットを本番中に着ているところは、ほとんどなかった。ダンスのような激しい動きがあるのであまり向いていない。そして冬なんかは寒いので、待機や移動中にはコートを羽織っていたことが多かった。ちょうど、いまのように。
「さぁさぁ、寒いやろ、早よ上がって」
「せやな。ウワッ! 寒ッ!」
「いまごろ思い出したんかいな」(笑)

 上にあがったアカネ。洗面台で手を洗って、ダイニングに入る。
「うわっ、めっちゃ本格的やん!」
 見回して喜んでいた。
「ケーキやケーキやぁ! これ、フーてするやつ? フウーッてするやつ?」
「それ、バースデーケーキやろ!」

 中略。
 飛び散らない、音だけのクラッカーを鳴らしたり、乾杯したり。
 さて、プレゼント交換である。私からは、アカネの好きなピンク色の(『アカネ』のくせに、赤ではなくピンクが好きなのである)長財布だった。それで、アカネからは……?
「これです! 開けてみて?」
 袋を渡された。中を開けると。既視感。
「これ、正装やん!」
「せやよ」
「二枚、持ってたんや?」
「そりゃそうやん。だって、二日連続でシゴト来たら、洗濯せなあかんやんか?」
「せやな……そりゃそうやな」
 それはいいとして、しかし。
「ほんで、私がコレもろてどうしたらいいんかな? クンカクンカする用なんかな?」
「ウワッ! もちろん、したかったらしてよ、ウチのニオイでよければ。もう洗濯したぁるけど!」
「そりゃそうやな……」
「それよりな、それよりな!」
 なんかイヤな悪寒、いや、予感がするぞ……。
「ひーちゃんもコレ、着てくださいよ」
「ぇ」
「ペアルックやで、ペアルック!」
 ナニソレ、意味不明。
「これでひーちゃんもアイドルの仲間入り~!」
「なんでやねん!」

 ケーキもプレゼントも用意していたのに、なんだかアカネのサプライズにすっかり負けてしまったクリスマスだった。

 ペアルック。
 結局――
 した。

〈寒いケドつづく〉
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