第6話
文字数 8,165文字
6章
冬気たちは、二人のパイロットが救急車で搬送されて、消防車が炎上しているヘリと建設中の建物を消火するのを見てから、帰途に着いた。
結局、テスカトリポカは逃がしてしまった。辺りも暗くなってきている。
「ビルの一件は、金の流れをたけおのコネで調べてもらうしかない。何か情報が出てくるだろう……もう、今日は疲れたよ」
「(同感だ。一日中、探し回っていたぞ)」
冬気たちが帰宅の道について、自宅の近くまで来ると、パトカーのサイレンの音が鳴っている。どうやら逃走犯の追跡らしい。
「……もう少しで家に帰れる、というところで」
「(ついでだ、追いかけるぞ)」
家々の屋根を通り、道なき道を走り、逃走している男たちはあっさりとジャガーマンによって捕まった。
「抵抗すらしないとはね」
「(なんとも張り合いの無い)」
逃げていた男たちは暴れることもなく、簡単に捕まえられた。警官の勘違いと誤解なのではないか、と疑いさえする。
「助かった、ありがとう」
駆けつけた警官たちが礼を言う。逃げていた男たちよりも人数が少ない。これでは逮捕に手を焼くだろう。
「早いところ家の護衛に戻らないと」
「どういうこと?」
警官たちの小話に冬気は反応する。
冬気が問いただすと、警官たちは、冬気の家の警護に当たっていた連中とわかる。
「何やってんだ?」
「(これはオトリかもしれんぞ?)」
すぐに捕縛されている犯人を尋問しようとする。
逮捕された逃走者たちは抵抗することもなく口を割る。
「俺たちは金を受け取って、言われたとおりに騒ぎを起こしただけだ。相手の顔は見てねえ、後ろから声をかけられて爪で脅し同然だったんだ!」
「(テスカトリポカの仕業だな……)」
師匠の言葉は暗くて重い。
たけおが冬気の家に警官の警護を頼んだのだろう。そしてそれがおびき出されてしまった。冬気たちは急いで家に戻る。
家に到着した冬気がにおいを感じ取ろうとする。
「(様子が変だぞ?)」
「確かに……知らない臭いが家の中にあるねえ」
ドアの鍵が開いている。家の中からは誰かの気配は感じられない。家に入ると中が荒らされていて争った跡もある。
「(血の臭いはないな)」
「ケガはしていない、ということだね」
冬気が師匠の言葉にうなずく。
家の中を歩き回って探したが誰もいない。
「(さらわれたのだろう)」
師匠に答える代わりにため息をつく。
「どうやって探そうか?」
すこしの沈黙の後、冬気が誰に尋ねるまでもなく言う。
「(匂いをたどるのは難しそうだな?)」
師匠の言う通りで、家の中に以前かいだものと同じ薬品で匂いが漂っている。これではジャガーマンの嗅覚が役に立たない。家を荒らして父親をさらっていったのもジャガーマンの能力を知る者の仕業のようだ。
元は警官が警備をしていたので後は彼らが来るのに任せればいい。
冬気は家の外に出て庭を歩きながら自分を落ち着かせようとする。何かが足に触れる。触れたものを拾い上げる。
「(落ちていたのは羽根飾りのようだな)」
「これと同じ飾りをつけていた人がいたね」
公園で弓矢を撃ってきたアルマという少女のものだ。
「彼女もここにいたのかな?」
「(わからん)」
かといって冬気たちには他に手がかりもないので、アルマが滞在している店に行ってみるしかなかった。
店に到着すると完全に日が落ちて夜になってしまった。
暗くなってもアルマの居候先の店は外装が派手なのでわかりやすかった。壁に貼られたポスターに今日のおすすめ料理が載っている。
今度ここに食べに来よう、と不謹慎にも思ってしまう。
入り口には臨時休業と書かれた札が下がっている。入り口はガラス張りなので中を覗くと誰もいない。入り口のドアを静かに開けようとするが、鍵がかかっていて閉まっている。
「ひょっとしたら、こっちも襲われたのかな?」
「(さあてな? 危険な感じはしないようだが)」
裏にまわって裏口を探す。
けれども、見つけた裏口も閉まっている。
「こうなったら、力づくで入るしかないね」
こっちは緊急の用件で人の命がかかっているのだ。
「(まあ、まずは話を聞け。ことを荒立てないようにな、そして冷静に行け)」
ドアノブの周辺を爪で切って、無理やり鍵を開ける。
強引に侵入した先は調理場だった。見たところこの部屋には誰もない。すぐに他の部屋に移動しようとして、客席のある部屋に出る。
「アルマがいるのは住居部分かあ」
そのようにつぶやいた後に部屋を眺める。槍と弓を持ったジャガー神崇拝のための等身大人形があるのを見て、師匠が満足そうに鼻を鳴らす。
「(良い心がけである)」
他にも鳥、狼、熊、などを模した獣人の人形が飾ってある。
冬気が眺めるのを止めて他を探そうとして部屋を出ようとしたとき気配を感じ取る。背後を見ると飾りと思われた人形が動き出している。
狼人の人形は手に持った武器の具合を見るように振り回す。冬気たちのほうに近づいてくる。どう見ても友好的ではなさそうだ。
「(どうやら侵入者を撃退するために置いてあったらしいな)」
「どうもそうみたい……師匠の知り合いの神様かな?」
「(こいつらは術で動いているだけの人形だぞ? 話は終わりだ、襲ってくるぞ!)」
近づいてきた狼人形が槍を繰り出してくる。突いてきたのを後ろに下がって避ける。離れ様子を見ようとすると、さらに追い打ちの突き攻撃が来たので、それを脇に移動して避ける。
かわしざまに爪を振り下ろして槍を切り落とす。木製の武器だったので苦も無く壊せる。
相手は人形のせいか武器を壊されても驚きもしない。
「(まったく、狩りの醍醐味が無い。生きるか死ぬかの決闘が……)」
表情を変えない人形に対して、師匠が文句を言い出す。
爪でさらに攻撃をしかける。
相手はこちらの攻撃を防ごうとするが、防ごうとする右腕ごと爪で切り捨てる。さらに、爪を横に薙ぎ払い、その首を切り飛ばす。
人形が動きを止めるが、しかし、それは一瞬だけで首なしのそれはそのまま襲ってくる。冬気は虚を突かれて体当たりを食らって背後に飛ばされる。
「たいした威力じゃないな」
体当たりの威力に感想を言う。
「(よく言う、驚いたくせに)」
人形は切られた槍の残った部分を振りかぶってきた。
振り下ろされてくるそれを脇に避ける。すれ違いざまに、その腕を左手でつかむ。
怪力でねじりあげると、人形は身動きが取れなくなる。
右腕の爪で懐を突き刺し、上に薙ぎ払う。爪痕を体に残して人形が倒れる。
「今度は動かないだろう」
冬気は自分の勝利に満足する。
いつの間にか、部屋に二人の人物が顔を出していた。おそらく店主と思われる男とアルマであった。夢中になっていて気付かなかった。
「すまないな、奥にいたんで声が聞こえなかったんだ」
「こっちこそ勝手に入ってすまないね」
男性は背が高く筋肉質で色黒である。額にある手拭いのいろどりが南米部族の出身であることを示している。
「アルマから事情を聞いて、物々しいから、早めに店を閉めたんだ」
どうやら何かを知っているようだ。
「(とりあえず、変身を解こう。こやつらは我々の正体を知っているからな)」
正体を見せるのに戸惑いはあったが、アルマには昼間に顔を見られているし、師匠の話によると男のほうは霊力を持っているようなので正体を見破られている、とのこと。
アルマは冬気に対してまだわだかまりがあるようで、声もかけずにそばを通り過ぎて、壊された人形を回収し始めた。
「すまんな、冬気は昼間、探し回って何も見つからなかったのでイラついているのだ」
師匠が壊された人形について詫びる。
その人形はアルマが拾い上げて修理している。それらはスピリットアニマルという、精霊を模した人形らしい。
「何で店を閉めている?」
師匠が自分の存在のことなど気にせず声をかける。男が師匠を見ながら眉の端を上げる。
どうやらこの男には師匠の姿が見えるらしい。アルマにも見えていた……霊力のようなオカルトパワーがあれば見えるのかもしれない。
「アルマが彼の家を訪ねて、戻ってきた。何かを見たらしい」
そういって男が冬気を見る。
男は自分のことをラザロと紹介する。彼はこの店を経営している。
「この街に住み着いた部族の者たちがいるので彼らのために精霊使いとしての仕事をしている……料理を作るのも、精霊使いとして彼らに占いを提供するのも、自分で選んだ道だ」
不愛想な態度とは裏腹に人は良さそうだ。
「彼女は見習いだ、この店のことを手伝ってもらっている」
冬気が横目に見ると、ラザロの指摘に対してアルマは気まずそうだ。見習いでは、大きな態度はとれないだろう。
「それはともかく、何を見たんだい?」
冬気がアルマを問いただす。
「協力するつもりであなたたちの居場所をラザロに占って調べてもらったんだ」
彼女の言葉遣いは部族のなまりのせいかぎこちないところがある。
「それで家まで来たけれど、精霊様は留守だった」
「一日中、家を空けていたからな」
たぶん、親父も今日はほとんど家にいなかっただろう。
「戻ろうとして家から離れたところで、急発進する車の音を聞いたんだ」
それで慌てて戻ったら走っていく車が見えて、家の方は荒らされていた、と話す。おそらくそのときに親父も誘拐されたんだろう。
「わたしは敵の手から守りたいだけ……。でも何も出来ないから隠れているしかなかった」
「賢明な判断だ。もしも止めに行っても人質が二人に増えていただけだったぞ」
誉めているとは思えない言葉で師匠が誉める。
「そっちの……フユキも戻ってこないし、帰るしかなかった」
アルマはまだ冬気に対してわだかまりがあるようだ。
「二度手間であったな」
「それよりも車のナンバーは見た?」
冬気がアルマに手がかりを尋ねる。ナンバーのほうは、警察と親戚づきあいのある友人に捜してもらえばいい。幸いにもアルマはナンバーを覚えていた。
テーブルにあるナプキンを一枚抜いて、そこにナンバーを記述する。
「しかし物騒なことを言うようだが、証拠の隠滅だけならば、誘拐しなくても」
店長のラザロが言うとおりで、家を荒らしていく必要はなかった。
「おそらくは探し物があるのであろう。他にも知っている者がいるかもしれないから……聞き出すつもりなのかもしれん」
師匠の言葉は、遠まわしに冬気自身も危ない、と言っているようなものだ。もはや冬気にとって完全に他人事ではなくなった。
「相手のいるところに乗り込んではどうですか、精霊様?」
アルマがジャガー師匠に聞く。
「無理だな」
師匠が否定する。
「出井蘭は一代で軍事産業の大帝国を築き上げた男で、したたかで知られているんだ。そんな奴のところに根拠もなく押し入ったら、相手の思い通りだよ」
師匠の代わりに答えた冬気にアルマは不満げだ。
おそらくはそれ相応の対策は取っているはず。
「しかし、探し物っていったいどういうものなんだ?」
「不正の証拠書類だよ……でも、金庫の鍵が」
ラザロの問いかけに冬気が答える。あの書類が鍵になる……おびき出すか、出されるか。
「私が見ていたから金庫の番号なら覚えているぞ」
師匠の得た情報が状況を良い方向にもっていきそうだ。すぐに家に戻らなければ。
「わたしも行く、手伝わせて」
アルマが唐突なことを言い出す。
冬気は彼女の態度を複雑な気持ちで眺める。
「協力はいいよ、遠慮する」
師匠がさっき言った通り、彼女は足手まといになる。
「わたしの部族は強引に立ち退きを迫られて……それを旧い世代の交代を嫌ったからわたしたちが追い出されたんだ」
アルマが冬気のほうを一度だけ見て話を続ける。
「今度もまた、否定してこんなことに遭ってしまって」
アルマが視線を地面に落とす。
「アルマなりに反省はしているんだ」
ラザロが心情を察して話す。アルマが部族を追い出されたのは出井蘭の強引な開発が原因なのだから、彼女が悪く感じる必要はない。
「いいや、お前たちがヒドイ目に遭ったのは神の力不足であり、我々テスカトリポカ自身が新しいことを受け入れず、拒んだことがすべての原因だ」
アルマが師匠の方を見つめる。
「誰も悪くなどない」
師匠が最後に付け加える。
「もう十分役に立ってくれたよ、ありがと」
冬気が車のナンバーを示す。教えてくれたことは感謝しなければならない。
店の外に出てから冬気は師匠と話す。
「あの神様は、親父を誘拐するまで待っていたのかな?」
「そうかもしれぬ」
冬気の推測を師匠が肯定する。
「奴にとって軍事産業は、世界に戦争を発生させるちょうどよい道具なのだろう。我々を殺すよりも先に出井蘭を安全にしようと企んでいたのかもしれん」
「敵を排除するよりも、自分の身の回りを片づけるのが先とは」
冬気が携帯電話をかける。今度はつながる。
「それも、我々が恐れられているからであろう」
師匠が歩くのを止めて座り込む。
「今までどこ行っていたんだ?」
つながった電話からはそんな言葉が出てきた。
友人で冬気の家の向かい側に住む緑山たけおは親戚に警察関係者が多い。彼にナンバーを調べてもらうほうがいいから電話をかけたのだが。
「いったいどういう状況なんだ……まあ、いい親父さんは見つかっていないし、このナンバーが手がかりなら」
「ジャガーマンに協力していて彼からその情報を得たんだ」
ともかく今はどうにかして手がかりを調べなければならないから、適当に誤魔化す。
「それはそうと、学校にも街にも慣れないのは問題だ」
「それは前にも聞いたよ」
心配なのか説教なのか、むしろ冬気は話しやすい相手なのかもしれない。
「前って昨日あたりのことだ。あと桜花がサイボーグのパーツ入手経路について調べたけど冬気と連絡がつかないと怒っていたぞ。重要なことか?」
「うん、重要々々」
マン・アット・アームズを先に片づけるか? 奴も出井蘭の手先の一人なのだから、いろいろ知っているかもしれない。
「過去を追いかけるのはよせ、学校生活にまで支障をきたすぞ?」
わかった、と冬気は答える。ナンバーは彼が調べておいてくれるらしい。
「ふむ、まったくだな」
師匠が余計な一言を言ってたけおの言葉に同意する。
「ここに人がいるとは思えないけれど」
冬気が弱気なことを吐く。
ジャガーマンがやってきたのは街の再開発地区である。
一見で、廃墟しかなく人が住んでいるとは思えなかった。この地区にあるものすべてが灰色に見える。それらはコンクリートと埃の色だ。
MAAの体を改造していたエンジニアとラボがある、と思われる。
「直すのならば、色々と必要になると思って調べてたら――」
電話口で桜花がそういってどこかのコンピューターに侵入して、サイボーグのパーツの受注配達記録を漁ったらしい。そうして配達記録から住所を調べてここに来た。
「嗅いだことのあるにおいだ」
師匠が言う通り冬気が嗅ぐと憶えのある臭いである。
臭いをたどって窓の板が打ち付けられた建物の間をすり抜ける。周囲は暗くて月明りだけが頼りである。ジャガーマンの目は薄暗い中でも見えるようで、移動することに問題はなかった。
建物のうちの一つに地下へ向かう通路を発見する。
「人の入れそうな場所だね」
臭いもこの通路の先に続いている。周囲を見ても見張りはいないようだ。まあ、趣味とはいえこんな真っ暗な場所に入る奴はいないだろう。見張りがいない理由をそう解釈して先に進む。
突き当った扉を開くと、内部は何らかの研究室のようだった。桜花の部屋で見たような装置の類が置かれている。明かりは付いていて人の気配がした。
部屋の中で動くものを探すと三人の男たちを見つける。
「どこかで見たような……」
冬気が頭で考えようとしてみるが、度忘れか思い出せない。
「(こやつら家を襲った三人組だぞ!)」
師匠がいち早く相手の正体に気付く。
「こいつ……」
「また会ったねえ」
冬気の姿を見つけて、ののしりながら三人組は武器を探そうとする。他に突然の事態に慌てている科学者風の男がいた。近くの台には何らかの武器と思える物が置いてある。
武器取引の現場なのかもしれない。
冬気は走って近寄り、一番近い場所にいた男を殴り倒す。さらに別の男が実験器具らしき鉄の棒を持ち出して殴りかかって来る。
それを脇に跳ねて避ける。
間を置かずに飛びかかり、相手の腕と肩をつかんで、背後に投げ飛ばす。
そいつは床に背中をぶつけてうめく。
「おとなしくしようね」
冬気が投げられた男に声をかける。
「(冗談もほどほどにしておけ)」
師匠が冬気をたしなめる。
最後の一人が台の上にあった怪しげな銃を手にする。
「それはまだ完成していないぞ!」
科学者が止めるのを無視して、構える。
銃から発射された光線が部屋の壁に当たり、そこを氷漬けにする。そのまま撃ち続けて部屋中を氷にしていく。
一方で冬気のほうは床の氷で滑って、走れない。
「(これはまずい、何とかしないと)」
周りを探すと金属製の棚に鉄のトレイが置いてあるのが見えた。
「あれを使おう」
冬気が棚に向かうと、相手も氷の光線銃を乱射しながら、近づいてくる。棚まで来ると、器具の置いてある棚を倒して、ぶつける。
その隙に、地面に落ちた鉄のトレイを拾いながら、転がって移動して距離を置く。体制を整えて鉄のトレイをフリスビーの要領で投げつける。
それは狙いたがわずに男の頭を直撃する。ひるんだ男に近づく。
「危険だっていわれたろ?」
冬気は冷凍銃を爪で切り裂く。さらに、胸ぐらをつかんで、地面に投げつける。男はうめくが痛みのせいか、動かずに倒れたままになる。
「ようやく収まった」
冬気は凍り付いた部屋で白い息を吐く。
「MAAはここにはいない」
この研究室にいた科学者と強盗たちがそう答えた。まあ、マン・アット・アームズ(MAA)の巨体は一目でわかる大きさだからな。
「違法武器、というよりも改造武器の販売は犯罪だからね……警察に引き渡してあげるよ」
しかし、科学者のほうは動揺せずに落ち着いたままだ。
「MAAは君を待ち伏せするつもりだ」
ほうほう。周辺にある装置をあごで示す。
「ここにある武器で、この僕を、やっつけようとしたわけか」
冬気が円盤状の装置に近づく。
「それは強力な地雷だ。君ごと辺り一面を吹き飛ばすために作ったものだ」
どうやらMAAは手段を選ばなくなっているらしい。
「なるほどね~、良いもの見つけた。それで本人はどこにいるの?」
できれば待ち伏せをされるのではなく、こちらから乗り込んで有利に戦いたい。
科学者は黙りこむ。
親父がまだ捕まったままであるし、かといって逃がしたら、連絡されて父親の命が危ないかもしれない。
強引に脅すしかない。
「そうか、じゃあしょうがない。エサにするしかないな」
手の爪を伸ばす。その爪で相手のメガネをつまんで外してやる。吠えて腕を振りかぶる。
「待ってくれ! わかった、なんでも話す!」
科学者の自白では、彼への支援資金はMAAが支払ったらしい。そうなるとMAAと出井蘭は昔の知り合いなので、裏でつながっていると考えられる。
出井蘭から流れている、というのは分かった。
しかし、MAAを通じてだから、証拠にはならないし。MAAは自分の改造費用として稼いだ金を払っているだけ。
ここでは科学者の違法な武器製造ぐらいしか犯罪が無い。強盗の三人組も、姿を見せない相手から依頼されただけらしい。
今まで受けた支援に関するすべてのデータを科学者が持っていた。いざというときの脅しに使うつもりだったらしい。これを友人たちに渡して調べて貰おう。
結局のところ、MAAから聞き出すしかないという結果になった。