ちょっとだけ勇気

文字数 1,362文字

毎朝乗ってる通学電車

決まった車両に乗るのが習慣です

同じように毎朝決まった入り口から乗る人、結構います

でも、そんな人たち顔は覚えても、挨拶をするわけでもなく、単に今日もいるな、くらいの感じで見てました

でも、その中に隣の駅からいつも乗ってくる一人の男子学生のことが、いつのまにか気になりだしていました

学校で友達にそれとなく言うと、すぐにコクらなきゃ、とか、行くしかないじゃんと、無責任にたきつけられます

でも、そんなんじゃなく、本当に見てるだけであたしは、少しドキドキする関係でいいって思ってました

あの日までは…

ある朝、あたしは珍しくシートに座れました、乗った瞬間に座ってたおばさんが慌てて降りて行って、後ろから押されるみたいな感じですとんと座れちやったのです

お年寄りでも乗ってきたらゆずろうかな、と思って隣の駅に停まると、彼が乗ってきました

いつもと同じ高校の制服にリュック、そして彼は、なんとあたしの目の前に立ったのです

じっと見つめたい、でも見てたら気付かれてしまうかな、そんな不安な気持ちで、それでも我慢できず、チラチラと彼を見てしまいました

そして、気付いてしまったのです

ああ、見つけてしまったのです、大変な事を!

ど、どうしよう、あたしは慌てました

これ、教えてあげないと、彼はきっと恥をかいてしまう

でも、あたしが教えていいのか、物凄く悩みました

頭がクラクラするくらい悩みました

だって、こんな事女の子に言わらたら、きっと彼は困るし、恥ずかしい…

でも、言ってあげないと、あたしは気付いちゃったんだから、でも、どうやって

まわりに聞こえるような声じゃダメです

彼にだけ聞こえなければ意味ありません

物凄く考え込んでいると、電車は次の駅に着きました

すると、そこで一人のおじいさんか乗ってきたのです

チャ、チャンスだわ!

あたしは、おじいさんを手招きして、席を譲りました

そして立ち上がり、彼の隣に立ったのです!

あたしは、人生で最大の勇気を振り絞り、彼の耳元で囁きました

「チャック開いてますよ」

彼は、ビックリした顔であたしを見ました、そしてすぐに、バタバタと手を動かし、ニッコリ笑って答えてくれました

「本当だ、ヤベエこのままだったらリュックの中みんな落としてたかも、ありがとな!」

彼は、背中のリュックの全開だったチャックを閉めると、そのまま次の駅で降りました

もちろん、社会の窓のチャックは全開のまま

あたしは、手を伸ばしましたが、どうしても声が出せませんでした

彼は、恥ずかしい格好のままホームの向こうに消えていきました

ああ、あたしはなんて罪深い女なのでしょう

明日、彼に会うのが怖くなりました

でも、次の日のことでした

毎朝と同じように隣の駅で乗ってきた彼は、あたしを見ると、少し顔を赤らめながら近づいてきて、小さな声で言いました

「昨日のあれ、ちがうほうだったのな、ゴメンな気付かなくて、俺ドジなんだ、勇気だしたんだよな、悪かったな」

これか、あたしが、彼と付き合うきっかけでした

やっぱり勇気は必要だよって、あたしは友達に言うようになりました

もちろん自分がどんな勇気を出したかは内緒のままね
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