1 ✿ ローゼンクランツ家の秘密

文字数 1,238文字




 ローゼンクランツ家には、先祖代々の秘密がある。
 それは、この家系の者はすべて、魔法使い、魔女だということ。

 私たちは魔法のことを「薔薇」と呼ぶ。
 薔薇は秘密の象徴だからだ。有名な秘密結社、薔薇十字団(ローゼンクロイツ)をはじめ、秘密の心象にはよく薔薇が現れる。

 錬金術には「哲学者の薔薇園」またの名を「賢者の薔薇園」という結合・生成の思想がある。
 薔薇園はやはり、秘密の箱庭なのだ。

 …と、堅苦しい話をおじいさまがされたが、当時幼かった私には「ハテな」の連続であった。

七歳の子には、さすがに難しいよ、おじいさま。分かんないって

 その時、ラルフにいさんは十四歳だった。

「分かりやすく話したつもりなんだが…」
「ごめんなさい、おじいさま。実のところ、ラルフにいさんのおっしゃる通りなの…」
「なんと」

 おじいさまはショックを受けていた。大学で難しい講義をされているから、話が難しいのも仕様がない。

「つまり、おじいさまが言いたいのは…」
 ラルフにいさんが、分かりやすく噛み砕いて教えてくれた。

 おじいさまが一番話したかったのは【ローゼンクランツ】の姓の意味だ。
 ローゼンクランツという言葉には「ロザリオ」と「薔薇の花冠」の意味があるのだ。

(いばら)の冠は受難の例えとなっておるがね。薔薇の花冠は、意味が違うんだよ、マリー」

「じゅなん?」
 やはり、おじいさまの使う言葉は、幼い私には難しかった。今なら分かるけれど。

「受難とは〝悲しいこと〟さ」

 ラルフにいさんが、また分かりやすくしてくれた。

「キリストは十字架にはりつけられて死んじゃったろう? それで(いばら)の冠は〝悲しいこと〟を意味するのさ。けれど薔薇の花冠は…」

「薔薇の花かんむりって、結婚式でつけたあれのことね」

「そうだ。マリー、おまえのロザリオを出してごらん」

 ラルフにいさんに言われて、私はロザリオを出した。
 先程兄さんは、ローゼンクランツは「ロザリオ」だと私に教えてくれた。

「この長い数珠の、小さな珠一つ一つが薔薇祈りの花なんだ」

の一つ一つが?」

「そう。祈りの花をつなげて、輪にしたものがロザリオであり、ローゼンクランツなのさ」

 この家の名は、ローゼンクランツ。
 祈りの花を輪にした家に、私は生まれたのね。

「薔薇の花冠は祝いの席で被る。つまり祝福だ。おまえはこの家に生まれた時から花冠をかぶっているんだよ、マリー

 おじいさまは、私の頭をそっとなでてくれた。
 マリー・ローゼンクランツの名は尊いと言って。
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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