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エピソード文字数 1,138文字

「明智光秀は、落ち延びたんだね」

「恐らくそうだ」

「於濃の方様は……どうなったの」

「於濃の方様のことは、歴史書にも詳細は書かれてはおらぬが、恐らく落ち延びたのであろう。信長が討伐されたあと、安土城にその姿はなく、侍女も知らぬ存ぜぬの一点張りで、行方はわからなかったからな」

「……秀さんありがとう。これでスッキリしたよ」

「そうか。この時代で生きていくなら、お主もこの時代のことをよく学ぶのだな。信長のように、戦国時代に戻ろうなどと愚かなことは考えないことだ。戦国時代なんぞ、ちーっとも面白くはないからな。
 だが、お主と逢えて信長も本望だろう。信長はずっとお主を捜しておったのだ。このわしが総長をしていた暴走族と、対立する暴走族に入ったのも、お主を捜すための手段であったのだからな」

 信長があたしを捜すために暴走族に……?もしかして、あの特攻服を見て、あたしが暴走族にいると思ったの……?

「男はみな戦わずして、武将とは言えぬ。若い頃はみな、暴れるものよ」

 暴走族の乱闘が、合戦だというの?
 そんなの間違ってる。

 看護師が談話室に入り、あたしに近づく。

「斎藤紗紅さんですね?」

「……はい」

「織田さんが譫言(うわごと)のように、あなたの名を呼ばれています。大変危険な状態です。本来ならば家族以外は面会謝絶ですが、先生が特別に面会許可を下さいました」

「……秀さんは」

「わし……、お、俺は帰ります。家族以外面会謝絶なんですよね。あとは、彼女に任せます。信也のことを宜しくお願いします。看護師さん、アイツは死んだりはしない。その変わり、突然消えてしまうかもしれません。アイツが消えないようにしっかり見張って下さいね!」

 秀は看護師に深々と頭を下げた。
 看護師は首を傾げ、眉をひそめる。

 戦国の世では天下人になるために、争っていた者達が、この時代では寄り添いながら生きているなんて……。

 まだあたしは夢を見ているのだろうか。

「斎藤さん、ICUの中へ」

 あたしは秀と別れ、看護師と一緒にICUに入る。

 信也の容態は再び重篤となり、危険な状態だった。

 もしかしたら信也は……
 現世と戦国時代の狭間を行き交っているのかもしれない。

 戦国時代に戻りたくて、魂が時空を彷徨っているのだ。

「……さ……く……さ……く」

「信也、あたしはここにいるよ。もう何処にも行かない。だから……信也も行かないで……」

 信也は、信長なんだ……。
 戦国の世に、信長を戻したりはしない。

 あなたを本能寺で死なせたりはしない。

「行かないで……。お願いだから行かないで……」

 泣きながら信也の手を握り締めた。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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