第3話(2)

エピソード文字数 3,204文字

「アナタ誰っ!? どこのどなたっっ!?

 なにこの方っ? 何者なの!?

「わたくしめは伝説(でんせつ)の踊(おど)り子侍(こざむらい)をしております、黄村(きむら)サクと申します。以後お見知りおきを」
「あ、ああ、アナタが助っ人さんだったんですね。予定より早いので、思い当たりませんでした」
「わたくしめは、予定時刻の一時間前到着を心掛けております。目上の方をお待たせするのは愚行ですので」

 彼女はこちらの瞳をしっかり見て、低姿勢で説明してくれる。
 へぇ~。この人は英雄なのに、態度も喋り方もまともだな。

「わたくしめは所詮、奇跡的に英雄の力を宿した下人。お待たせするなど言語道断なのです」
「い、いや、そこまで丁寧にして頂かなくても。大体俺、目上じゃないですし」
「色紙様、わたくしめに敬語など不要です。年齢は十九で年上となってはいますが、名を呼び捨てにして俗に言うタメ口になさってください」
「え、ぇぇ。それはちょっと……」
「わたくしは元々特筆すべき点がない人間で、偶々偉くなっただけなのです。この世にいらっしゃる全人類――いいえ。虫様、微生物様も見上げる存在でございます」

 現お侍様はそう告げると、目の前をプーンと飛んだ小虫に一礼した。
 はい、さっきのは前言撤回です。この人も変わってますわ。

(おいシズナ、なんだよこの方。どうなってんの?)
(サクさんは、ね。弩級に卑下し、周りを敬う人なのよ)

 新たな珍妙人間の親友は、苦笑いを浮かべた。

(まーた妙な性格が出たよ。どうしてこんな風に育ったんですか?)
(全ての原因は、彼女の祖父さんにあるの。サクさんのおじい様は神童と呼ばれるほどの秀才だったのだけど、他人を見下し、自惚れ、自慢ばかりする、人としては駄目な部類に入る方だったんですって)

 と、駄目な部類に深く入っている者が語る。

(その為友達は0で、生意気だと叩かれ、生涯何をやっても成功できなかった。そんな姿を見た息子――サクさんのお父様は過剰に『自惚れ』や『見下し』を恐れるようになり、二の舞を演じさせないよう、必要以上に卑下して敬う教育を施したそうよ)
(うわぁぁぁ……。お父様やりすぎ……)
(ちなみに髪をややボサボサのショートカットにして少しよれた服を着ているのは、目立たないようにする為なの。実はちゃんとすれば一番綺麗で可愛いのだけれど、それだと卑下が嫌味に聞こえるから質を落とさせているのよ)
(お父様、隙がねぇ……! 普通にしていたら、おじいさんみたいにはならないのにな……)

 過ぎたるは尚及ばざるが如し。アナタの娘さんは、別の意味で悪い人生を送ってますよぉ。

(シズナ、あれさ。直した方がいいんじゃないの?)
(本人は気に入っているし、あっちの日本では『腰が低い偉人』として大人気なの。私達も一時はそう思ったけど、相談の結果そのままにしているのよ)

 ふ、ふむ。それなら、口出ししないでおきますか。

「色紙様と虹橋様は、小声で会話をされていますね? わたくしめは教養がない人間故、知らず知らず礼を失してしまったのでしょうか?」
「こっ、これは個人的な話っ! 礼を失してませんよっ」
「そ、そうでございますか。安堵致しました、が……」

 が、なにっ? なんなのっ。

「わたくしめ如きに、敬語は不要でございますよ。是非、先程申し上げた通りになさってください」
「う、うん。わかったよ、サク」

 修正しないと進展しそうにないので、従順した。なんか違う意味で、この方の相手するのは疲れるな。

「わたくしめに金堂様の代わりが務まるとは思えませんが、精一杯尽力致します。なにとぞよろしくお願いします」
「は、はい――お、おう。じゃあ夜にある歓迎会の前に、朝ご飯でプチ歓迎会をやりましょうか」
 台所をチラ見したら用意されている皿は四つで、それはつまりサクは朝を食べてない。皆でテーブルを囲み、ワイワイやるとしましょう。

「いいえ、わたくしめに立派な御食事など不要です。異空間にサプリメントを保管しておりますので、お気遣いなく」

 提案したらサクは、ビタミンCやAの文字があるプラスチックケースを取り出した。
 ぉぉぉ。この人って、こんな部分でも一歩引くんスねぇ。

「あ、あのね? サクこそお気遣い無用だよ? 一緒に食べましょうよ」
「そんな、滅相もございません。わたくしめが皆様と同じ席に座るなど、あってはならない事なのです」

 彼女は正している姿勢を更に正し、これまた丁寧に辞退する。
 おいアンター。ここは貴族社会じゃねーですよー?

(はぁ~、参ったなぁ。これ、どうすりゃいいの?)
(にゅむーっ。こーゆー時は、あれをやればいーんだよーっ)

 オムレツを運んできていたレミアが、ニパーッと笑った。

(『あれ』? あれってなに?)
(ふふふ。従兄くんが怒ってくれたら、教えてあげるわ)
(レミアに聞けば、怒られなくても教えてくれる。ねえ、あれってなに?)

 なんなのかな? わくわく。

(にゅ、にゅむむ。シズナちゃん、ショックを受けてるよー……?)
(従兄くん、手強くなってる……。どうすれば怒ってくれるの……!?

 変人は動揺し、本気で悩んでる。
 もうヤダっ。鬱陶しいヤツばっかり!

(こうなったら、最後の手段……。奇声を発してお庭を走り回りましょうか……!)

 そんなのやられると、大問題に発展する。下手したら警察沙汰だ。
 …………仕方ないんで、弱いバージョンをやりますか。

(外で奇声を発したら許さねーからな! ドロップキックと回し蹴りをお見舞いするぞバカ女!!
「ひゃわん!? たまら、ない、わぁ……!」

 変態は内股になって肩を抱き、とろけそうなトロンとした目になる。
 もう、コイツさぁ……。そのままとろけて消えてくれないかな。

(ふぅ、一仕事終了。んでレミア、『あれ』ってなんなの?)
 教えて教えて。教えてレミア先生。

(にゅむむ、見ててねー。ではではシズナちゃん、やりましょーっ)

 レミアは変人が通常モードに戻るのを待ち、興奮が収まると二人でサクの前に行った。にゅむむん、彼女達はなにをやるにゅむ?

「サクちゃんサクちゃん、一緒にご飯を食べよーよー。ゆーせー君もシズナちゃんも、あたしもそーしたいのっ」
「わたくしめは、そのお言葉だけで満足です。黒真様、ありがとうございます」
「…………そう、サクさんは御一緒してくれないのね……。悲しいわ」

 がっくり。そんな擬音が出そうなほど肩を落とし、シズナはショボンとなった。

「私達は貴方が食卓に居てくれたら、何倍もご飯が美味しくなるの。親友のお願い、聞いてくれない……?」
「にゅむむーっ。あたし心を込めて作ったから、サクちゃんに食べて貰えないとかなしーよー」
「そっ、そう仰るのであればご相伴に預かりますっ。皆様を悲しませるのは、愚行中の愚行ですからねっ!」

 サクはレミアが見ていた席に座り、素早く食べる体勢を整える。
 おおっ。謙虚人間がOKを出した。

(サクさんは友達や仲間が悲しむのが大嫌いで、ああいう風にすると折れてくれるの。呼び方など一部は駄目だけど、大抵の事には通用するわ)
(ゆーせー君も、ぜひぜひ使ってみてねー。みんなで楽しー時を過ごせるよーになるからーっ)

 ふむふむふむ、この人にはこう振る舞えばいいのか。勉強になりました。

「よっし、それじゃあ朝ご飯にしようっ。レミア、セッティングよろしくです」
「にゅむむむーっ。高速でやりまーっす!」

 こうして料理人兼配膳係のにゅむ子が準備をしてくれて、皆でいただきます。フュルには悪いが親睦を深め、腹を満たした俺らは目的地へと向かったのだった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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