惨劇の館

エピソード文字数 1,412文字

「どうやら道に迷ったみたいね」
「このクソ暑さだ。野宿なんてできやしない。もうちょっと歩いてみよう。どこかに家があるかも知れない」
 テキサスの荒れ果てた荒野の片田舎で、二人のカップルは道に迷い猛暑のなかで途方にくれた。彼の愛車のバンが、旅の途中でエンストを起こしたせいだ。一寸先は蜃気楼で目が眩みはじめた。
「お腹がすいたわ、ダーリン」
「がまんしろ、あともう少しの辛抱だ」
 二人は黙って歩きつづけた。
 しばらくして、彼女が甲高い声をあげた。
「あれを見て」
「よし、運がいいぞ」
 遠くに一軒の館が見えたのだ。
 その館の外観はボロボロだったが意外に大きかった。
 二人は足が棒のように疲れ果てていたが、必死にその館へと向かった。
「ごめんくださーい」彼女はくり返して叫んだ。「どなたかいませんかー?」
 何度もドアをノックしたが、返事はなかった。
「人が住んでいないのかしら?」
「かまわん、なかに入ろう」
 ドアノブをひねると簡単に開いた。
 ギィィィィィィ――
 古びたドアの蝶番の(きし)む音が不気味に鳴り響いた。
 二人はおそるおそる部屋のなかを見渡した。
 テレビもラジオもなかった。
 部屋のなかはゴミ屋敷と化しており、天井から得体の知れないものが何本もぶら下がっていた。
 もしかして、繋がったままのソーセージか?
 彼は怪訝(けげん)そうな表情で首を傾げた。
「なんという館なの……薄気味悪いわ……」
「でも、野宿するよりマシだ。もう少し調べてみよう」
 台所に二人が向かいかけた時、どこからともなく匂いがただよってきた。
「おい、この匂いはなんだ?」
「肉をあぶったような匂いだわ」
 その匂いは二人の空腹を刺激するどころか、吐き気をもよおすほど不快な感じがする匂いだった。
「へんな部屋だな」彼は鼻をつまんだ。「気味が悪くなってきた」
「もう出ましょうよ!」
 彼女は青ざめた顔のまま彼の肩をゆすった。

「ひぇーひっひっひ。どうやら二匹の獲物がかかったようだな」男は低い声でドスをきかせた。「なぁ、おまえさん。肉ばっかり焼いてないで、この穴からよくのぞいてみろ。今夜はごちそうにありつけるぞ」
「……」
 もうひとりの大男は無言のまま、ただひたすら肉を焼きつづけている。
「すこしは返事しちゃどうだ――肉ばっかり焼いて食べて、マスばっかりかいても大人になんかなりゃしねぇんだぞ」
 大男はギロッと彼を睨みつけた。
「おっと、すまねぇ。ちょっと口がすぎたようだ――いまからおれは裏口から出て保安官を装い、あのアベックをこの秘密の部屋へ連れこむぜ――準備はいいか?」
 大男は無言のままコクリとうなずいた。
 つぎの瞬間、部屋のなかで物音がした。

 シュウィィィン――――! 
 シュウィィィン――――! 
 シュウィィィン――――! 

「あの音は、なに?」
「機械のような音だが、いったいなんの音だ?」
 二人はぶるぶる震えながら抱きあった。
 大男は無表情のまま、大きな刈払い機の刃を高速回転させた。
 唇から涎を垂らしながら……
 「よぉ、おふたりさん」保安官姿の男が二人の背後から声をかけた。「なぜ、こんなところにいるんだね?」


 世界はとてつもなく広い――この不気味な館にキチガイめいた人食い人種の殺人鬼がひそんでいても、なにもおかしくはないのだ。







 



 
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