第三話「超人の剣」

文字数 2,424文字

玄関で赤い靴の紐を固く結んだ水島は勢いよく立ち上がり木の扉をゆっくりと開けると錆びた蝶番(ちょうつがい)が軋む音を少し立てた。
ふーーーーーっ。
靴ひも結ぶのに一週間かかったな。

速足で歩きだす水島。

やっぱりだ。

週刊少年漫画雑誌のネタではないが次の号までラストシーンで待っている漫画の中の登場人物の気分だぜ。


それだけこの物語は葛藤している。

そしてそれだけゴールにたどり着くのが難しい、ということだ。

さあ、もう無駄口は叩かない。

少なくても今回は前回までとは違うだろう。


起承転結の結まで一気にいってやる。

なぜならそうしないとこの物語は最後までたどり着かずに筆を折られるかもしれないし、あんたのココロが折れてしまうかもしれないからだ。


普通、物語の核心は後半に温めておくものだけれど、上記の理由からそうはいかない。ごてごてと無駄口を叩くのは後半にファンサービスでとっておけばいい。

と、こんなことを言っている間に次回予告の時間が来ました


なんてオチは今回はなしだ!

水島は地面を強く蹴り全力で走り出した。背中のリュックが勢いよくチャックを開けて中に入れた本やワイヤレスキーボード、ガムや水筒がドサッと地面に落ちた。

へへへ、ライトノベルらしいじゃないか。

ゆっくりとモノを拾いながら水島は落ち着いた口調で話し始める。

キルケゴールを倒す、というのはどういうことか?

それは過去の哲学として実践的機能を果たしていないものとして

今の時代に即した実践的なものを打ち立てる、ということだ。

時代は変わった。言葉も、社会も、少なくてもここでは国も違う。

当然、哲学だって進化しているのだから今の時代に合わせていくもんだ。


それがなんでキルケゴールか?

それはただ俺に因縁があるから、それだけだ。

俺だって哲学をすべて学んだわけでも理解したわけでもない。


もしかすると大きく間違っているかもしれない。

ただ、38年間生きてきて、ものごとの本質を探し続けるうちに

いくつかの考えにぶつかり、その答えがここにある気がするんだ。

リュックにモノを押し込みチャックを閉めた。再び速足で歩き駅の改札を通った。駅のホームの端まで行き少し曇った空を遠くに見ている。

なぁ、あんたは

「ここじゃないどこか」ってあると思うかい?

少なくても一度くらいは考えたことあるんじゃないかな。


これは別にセンチメンタルな心情でもなきゃ魔法の世界にようこそ、なんて話じゃあない。


かといって遠い惑星の地球によく似たどこかの話、なんかでもない。


ただ、、、

もしも、そんな場所があるなら行ってみたいと思わないか?

しかし、この社会を覆っているものの考え方のフレーム、つまり枠組みがあって、それが世界の認識に影響を与えるほどのものだとしたらどうだろう?


ありそうじゃないか?

快速電車が猛スピードで駅を駆け抜けて風に煽られた水島の服の裾が風に揺れる。

水島は涙を流していた。溢れる涙が頬を伝い顎の下から落ちている。

人生というのは、ままならないな。


俺は表情のアイコンがなけりゃあ泣くことだってできやしない。

別に深い意味はないよ、、、


人生がままならない人間、迷った人間、それが頼るのが、ぶち当たるのが哲学だったり宗教だったり思想だったりするのだろう。


少しきな臭い話になってきたろ?

胡散臭いような危険に少しは触れないと、やつとは闘えない。

俺がやろうとしているのはそういったもんのつもりだ。


、、、まずは、ここじゃないどこか、それがあるかもしれないという可能性の予感、ないしは不安を提示できればいい

水島は服の袖で顔を強く拭った。速足で歩きだす。

さあ、ではキルケゴールを倒す方法の話だ。


ニーチェって有名な哲学者の名前くらいは聞いたことがあるか?

キルケゴールよりはよっぽど有名な人だ。


最近は名言集なんてのがよく売れたりサブカル界隈では時々引用されたりしている。


「超人」「力への意志」という言葉で有名なのだけれど、その超人をもってキルケゴールを倒す。

つまり「超人の剣」だ。

ホームに止まった電車の扉が開き、ゆっくりと乗り込んだ。

超人って言っても大きな岩を持ち上げたり、目から光線を出せなくてもいい。ただ、思想の実践であらゆる概念を超えていけばいい、それだけだ。


ニーチェは生きること、人間の「生」を萎縮させることなく、拡張して爆発させるような力強さで生きることを主張する。善も悪もなく、その二項対立さえも超えてさの先の彼岸へ、さらなる理性の、力への意志を持て、という。

だから有名な、神は死んだ、なんて言葉も出てくる。

かといって快楽に身を委ねろってことでもない。理性の力を拡大させるのだから人間はさらなる高みに行くことになる。堕落でも退歩でもなく生きることを推し進めた場合、やはり刹那的ではない精神の高みが課題になるんだろう。

うーん、なんか言葉が勝手に難解になってきた。

言葉自体は難しくなくても理解するにおいて「高み」なんて言葉、まったく具体的に伝わってこない。


高み、というのはようするに発展させる意志の目指すところ、だろう


超人は過去の誤謬や迷信を捨てることに迷いがない、

自分の健康をいや増し、肉体も精神も力の意志と共にさらに上を求めるんだ。

電車のドアが開いた。

さあ、秋葉原についた。

あー、ちなみにさっきまで独り言をぶつぶついいながら車内で不自然に浮いていたけれど、最近はワイヤレスイヤホンも小さくなったから、ああ、電車で通話しているマナーの悪い野郎だな、と思われたくらいだろう。

改札を出ると水島は大きく両手を広げ身体を伸ばした。

さぁ、俺の仲間でてこーい!

いい加減、俺以外の登場人物出てきてくれー!


警備員でも駅員でもいいから誰か俺に話しかけてくれ、、、

さあ、次回予告です!

え、えーと次回は、、、


「人を愛するということ、絶望の始まり」

でお会いしましょう~(;´∀`)


水島さんの情熱は伝わりましたでしょうか?

水島さんを独りにしないでくださいね~。



は~、私の出番当分ないかも(-_-;)

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登場人物紹介

名前「水島義男(みずしまよしお)」

中二病を病み続ける男。

哲学者キルケゴールの存在を知ったときに自分は彼の生まれ変わりだと信じてしまい絶望に身を投じる。


名前:セーレン・キルケゴール(アイコンは作者描いてます)

実在したデンマークの哲学者。

著書「死に至る病」が有名。

実存哲学の巨匠である。愛した女性レギーネ・オルセンの婚約を突如破棄し、絶望の中から哲学を探求し続けた。

名前:結城美緒(ゆうき みお)

水島にとって、すべてをかけて愛したという最愛の人。


キルケゴールの著書

名前:竹林香織(たけばやし かおり)

通称「かおちん」

パチンコ屋の店員で結城美緒の親友


女の子

覚醒レベル「サード」の覚醒者

水島義男の物語を向かわせるべきところへ導こうとする

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