第三話「超人の剣」
文字数 2,424文字
速足で歩きだす水島。
さあ、もう無駄口は叩かない。
少なくても今回は前回までとは違うだろう。
起承転結の結まで一気にいってやる。
なぜならそうしないとこの物語は最後までたどり着かずに筆を折られるかもしれないし、あんたのココロが折れてしまうかもしれないからだ。
普通、物語の核心は後半に温めておくものだけれど、上記の理由からそうはいかない。ごてごてと無駄口を叩くのは後半にファンサービスでとっておけばいい。
ゆっくりとモノを拾いながら水島は落ち着いた口調で話し始める。
それはただ俺に因縁があるから、それだけだ。
俺だって哲学をすべて学んだわけでも理解したわけでもない。
もしかすると大きく間違っているかもしれない。
ただ、38年間生きてきて、ものごとの本質を探し続けるうちに
いくつかの考えにぶつかり、その答えがここにある気がするんだ。
リュックにモノを押し込みチャックを閉めた。再び速足で歩き駅の改札を通った。駅のホームの端まで行き少し曇った空を遠くに見ている。
少なくても一度くらいは考えたことあるんじゃないかな。
これは別にセンチメンタルな心情でもなきゃ魔法の世界にようこそ、なんて話じゃあない。
かといって遠い惑星の地球によく似たどこかの話、なんかでもない。
ただ、、、
もしも、そんな場所があるなら行ってみたいと思わないか?
快速電車が猛スピードで駅を駆け抜けて風に煽られた水島の服の裾が風に揺れる。
水島は涙を流していた。溢れる涙が頬を伝い顎の下から落ちている。
俺がやろうとしているのはそういったもんのつもりだ。
、、、まずは、ここじゃないどこか、それがあるかもしれないという可能性の予感、ないしは不安を提示できればいい。
水島は服の袖で顔を強く拭った。速足で歩きだす。
さあ、ではキルケゴールを倒す方法の話だ。
ニーチェって有名な哲学者の名前くらいは聞いたことがあるか?
キルケゴールよりはよっぽど有名な人だ。
最近は名言集なんてのがよく売れたりサブカル界隈では時々引用されたりしている。
「超人」「力への意志」という言葉で有名なのだけれど、その超人をもってキルケゴールを倒す。
ホームに止まった電車の扉が開き、ゆっくりと乗り込んだ。
超人って言っても大きな岩を持ち上げたり、目から光線を出せなくてもいい。ただ、思想の実践であらゆる概念を超えていけばいい、それだけだ。
ニーチェは生きること、人間の「生」を萎縮させることなく、拡張して爆発させるような力強さで生きることを主張する。善も悪もなく、その二項対立さえも超えてさの先の彼岸へ、さらなる理性の、力への意志を持て、という。
だから有名な、神は死んだ、なんて言葉も出てくる。
うーん、なんか言葉が勝手に難解になってきた。
言葉自体は難しくなくても理解するにおいて「高み」なんて言葉、まったく具体的に伝わってこない。
高み、というのはようするに発展させる意志の目指すところ、だろう
超人は過去の誤謬や迷信を捨てることに迷いがない、
自分の健康をいや増し、肉体も精神も力の意志と共にさらに上を求めるんだ。
電車のドアが開いた。
改札を出ると水島は大きく両手を広げ身体を伸ばした。