第五話 腹が減っては戦はできぬ
文字数 1,107文字
ちょうど夕飯が出来たところじゃ。
ほれ、たんとお上がりなさい。
そんなに意地をはらなくても……。
盗むよりずっとマシですよ、姫様。
武士は食わねど高楊枝とは申しますが、ここはご老人の好意に甘えておいた方が吉かと。
うっさいわね!
そもそもあんた達が役立たずだから、こんなことになったんでしょ!
何をもめとるのかわからんが、腹が減っては戦は出来ぬ。
まずは食べてからにしてはどうかの?
ちっ……違うから!
今のは別に……お腹が空いてとかじゃないから!
なあに、心配せんでも毒なぞ入っとらん。
味の保証はできんがの。
そ、そこまでいうなら……た、食べてあげてもいいわよ。
言っとくけど、マズかったら承知しないからね!
ハッハッハ! 面白い子じゃの。
ほれ、冷めないうちに食べなさい。
……!!
なにこれ、美味しい!!
モグモグ……じゃがいもの甘みと……ムシャムシャ……肉の旨味がマッチして……ガツガツ……おかわり!!
ハッハッハ!
口に合ったなら嬉しいことじゃの。存分にお上がりなさい。
猫ちゃんは、魚の方がいいかの?
魚は刺し身で。
あと、酒を熱燗でいただければとお伝え下さい、お嬢。
私はチキンのローストに、少し重めの赤ワインがあれば。
あ、こいつらはさんざん食べたから食事はいらないから。
ミカン箱だけ用意してもらえる? 家の外に。
ふむふむ。つまり、悪魔のような極悪非道の父親のもとを命からがら逃げ出して、あてのない旅をしているというわけじゃな。
臭いものに蓋をする、お嬢もまた一つ大人になられましたな。
どんな理由であれ、若い時に経験を積むのはいいことじゃ。
身を寄せるところがないようなら、しばらくここに泊まっていくがいい。
なあに、心配することはない。
どうせじじいの一人暮らし。空いとる部屋もあるでな。
お世話になっちゃいましょうよ、姫様。
食事も泊まるところも探さなくて済みますし。
賛成ですな。
刺し身も酒もなかなかのものでしたし、なによりこのミカン箱の心地よさといったら……。
いや、人間に施しを受けるのは、一族の誇りを汚すことになる。
もし遠慮しとるようなら……そうさな、畑仕事でも手伝ってくれんかの。ワシも歳だから助かるでな。
ま、まあ、そういうことなら……手伝ってあげても……いいかも……。
ハッハッハ!
では、決まりじゃな。明日は早くから畑仕事じゃ。今日はゆっくり休むといい。
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