第5幕

文字数 1,508文字





 「僕達が、絶対に譲れない条件として設定したことは、全部で三つあった。

 まず一つ目。

 『銀の翼秘密同盟』のメンバーは、全員同じデザインのピンバッジを、大事にしている持ち物に付けているんだけど、それに気付いて、尚且つ気に入ってくれるかどうか。

 そして二つ目。

 既存メンバーが得意とする事柄に興味を持ち、それに喜んで関わろうとしてくれるかどうか。

 最後の三つ目。

 新たなメンバー候補となるその人物に、本人も周囲の人間も夢中になれる趣味、あるいは特技があるかどうか。

 …‥この全ての条件に当て嵌まったのが、晶だったというわけなんだ。

 だけど、個人的には、条件なんて、もうどうでも良いと思ってる。

 そんなこととは関係なく、晶は僕らにとって、いつも一緒にいたいと思える、大切な存在になってるんだ」

 蔦彦は、そこで少し弱気な表情を浮かべると、探るような眼差しで、晶を見詰めた。

 「でも、晶にとってはどうなのかな。

 もし、ここにいる三人と、同じような気持ちでいてくれるんだったら、ぜひ同盟の一員になって欲しい。

 四人で一緒に物語を創り上げることが出来たら、きっと楽しいと思うんだ。

 そう思わないか?」

 改めてそう打診されるまでもなく、晶の気持ちの上では、九割方、蔦彦達の提案を受け入れていた。

 しかし、残りの一割の領域では、もやもやとした感情が渦巻いていた。

 それを無視するわけにもいかず、正直に言葉に出してみた。

 「僕にとっても、きみ達三人は、とても特別な存在だし、これからもずっと付き合っていきたいと思ってるよ。

 …‥だけど、同盟のメンバーとして相応しいかどうか、ずっと値踏みされていたのかと思うと、どうも釈然としない気分なんだ。

 僕としてはただ純粋に、友達になりたかっただけなのに」

 すると、竹光がやや唐突な感じで、こんなことを言い出した。

 「晶、ハーモニーだよ」

 「…‥ハーモニー?」

 「そうさ。

 僕はね、晶と出逢ってから、仲良くなっていく過程で、心地好いハーモニーを感じたんだ。

 多分、ここにいる四人が四人とも、それぞれの関係性の中で、何かしらのハーモニーを感じたことがあると思うんだ。

 だからこそ、お互いが特別な存在だと思えるんだよね。

 そうして、そんなハーモニーを感じ合う間柄だからこそ、物語という名の音楽を奏でる時には、誰も聴いたことのない、壮大で美しい交響曲を完成させることが出来る筈なんだ。

 僕は、この四人でしか演奏出来ない物語を、聴いてみたくて堪(たま)らない。

 …‥晶はどうだい?

 聴いてみたいと思わないか?」

 そこで晶は、放課後の自転車小屋での蔦彦との出逢いを思い返した。

 同じように、音楽室での竹光との出逢いを、生徒会室での真澄との出逢いを思い返した。

 彼らと育んだ想い出の中には、竹光の言うように、心地好いハーモニーが流れているような気がする。

 だからこそ、つまらないことに依然と拘り続けていると、それら全てを手放してしまうことにもなりかねない。

 そんなことは絶対に嫌だと、魂が叫んでいた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

・・・ 第6幕へと続く ・・・


☘️いつもご愛読頂きまして、ありがとうございます。1000記事以上の豊富な読み物が楽しめるメインブログは、『庄内多季物語工房』で検索出来ます。そちらでも、あなたのお気に入りの物語を、見付けてみて下さいね。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み