泉の乙女、青のロディーヌ 

文字数 2,327文字

クララ・ローゼ 様作

あらすじ引用
人も神も妖精も存在する世界で、兄たちを探してその呪いを解くという運命に導かれ、泉の王国の娘ロディーヌは一人過酷な砂漠を渡り、瘴気の森を逃げ切り、旅の途中の美しい将軍オワインと出会う。

わずかな時間だったけれど、激しく惹きつけられあう二人。けれど想いを叶えるためにロディーヌは別れを選択する。

やがて念願を果たし帰郷する兄妹たち、しかし二度と会うことはないだろうオワインを想ってロディーヌの胸は塞ぐばかり。一方、祖国に戻ったオワインもロディーヌへの想いを断ち切れず、聖獣・黒豹のジュールと共に泉の王国を目指す。

彼ら二人の屈折した過去の心境や苦難の時期、襲いかかる驚異の自然現象。疫病に災害に、生きることは簡単ではないけれど、それでも愛する人がいるならば……。

はるかなる神話の世界に端を発し、入り乱れる時間が複雑に絡み合って作られる世界の美しさ。花を追って世界を飛ぶ蝶、伝説の宝石、奇跡の色。負の要素もたくさんあるけれど、最後はハッピーエンド。お伽話を愛しつつ大人になった人たちに楽しんでもらいたい物語。

グリム童話「The Seven Ravens (七羽のからす)」をベースに作りました。

1 物語の始まりは
門の前で、簡単に開けられない鍵を開けようとしている場面から始まっていく。枝などで開けようとするも、ぽきりと折れてしまい門は固く閉ざされたまま。途方に暮れていたが、ふと自分の指を見て鍵穴に差し込んでみるのだった。

2 七羽のからすという物語について
【概要】
7の息子を持つ農夫がいた。何故かどんなに望んでも女の子が産まれて来なかった。しかしある時やっと女の子を授かることができた。しかし彼女は病弱であり、自分たちで洗礼するしかなかった。彼は子供たちに水を汲んでくるように言いつけるが、彼らは我先にと水を組もうとしたため、水差しを井戸に落としてしまいました。帰るに帰れなった彼らに対し、父は遊んでいると勘違いをする。そして”カラスになっちまえ”と呪いの言葉を口にすると、彼らはカラスに変わってしまったのでした。
月日が流れ、順調に成長した末の娘は自分に兄がいることを知りませんでした。しかし、町の人達の噂などから真相を知ってしまいます。彼女は真実を知り彼らを探す旅に出たのでした。(中略)
・その後長い旅でいろんなことがあった後に、兄たちを元の姿に戻しみんなで帰るという話です。

3 登場人物について
人物設定はオリジナルだと思われる。
主人公は泉の王国民。カラスの門の前で森の王国の者と出逢う。
三人の兄たちは性格がそれぞれ違っていたが、妹である主人公のことをとても大切に想って可愛がっていた。主人公もまた、彼らからの愛を感じていた。

4 物語について
門のところで出逢った森の王国の者との話で、兄たちがカラスになった経緯とその後について語られていく。
それは幼き日の主人公と、大好きな兄たちと出かけた日のことであった。兄は自分のせいで父を怒らせてしまった。まだ子供だった兄たちが濡れて重みの増した自分を家まで連れ帰ることは、とても大変だったはずなのに。父もまた普段なら怒りに任せるような人ではなく、子供たちを愛していたはずなのに。全て自分のせいなのに、誰も自分を責めることはなかった。だからこそ自責の念に駆られ、主人公は暗闇に心を閉ざしてしまった。ある時、ある言葉を耳にするまで、心は死んだも同然だったのだ。
皮肉にも、自分の心に怒りの感情を取り戻させたのは、自分たちが信仰している女神であり、自分へと祝福を齎したはずの存在だった。しかし彼女は一匹の蝶と出逢い、それをきっかけとして心境に変化が起きていく。

5 感想
罪とは、責められ裁かれるからこそ救いがある。それが例え逃避であり、自己満足でしかなかったとしても。この物語の中では、兄たちがカラスに変えられてしまった原因となった主人公がとても苦しんでいる。それは自分が原因であったにも関わらず、責められることもなく逆に守られてきたから。しかし仮に責められたところで、何も解決はしない。自分の心が軽くなるだけなのだ。父も自分が感情に任せてしてしまったことを後悔し、まだ希望は捨てていない。だからと言って誰も動かなければ何も解決はしないのだ。主人公は、希望のその先へ歩き出そうとしたのではないだろうか?

6 見どころ
門の前での出会いは、彼女に今まで何があったのか明かされていくための、はいり口となる。幼い日、兄たちと出かけた先で泉に落ちてしまった主人公は、女神に助けられる。恐らくそれは全ての始まりであり、終わりではなかった。だが、兄がカラスに変えられてしまい心を閉ざしてしまう。
両親も同じように後悔し悲しんではいたが、彼女の為に悲しい顔を見せることはなかった。そして月日がたち、ある言葉から感情を取り戻す主人公は、初めは女神に怒りを感じていたものの、ある蝶に出逢い心が落ち着き、いろんなことを冷静に考えていくようになる印象を受けた。
主人公が女神に再び会い、兄たちに会いに行こうと動き出すところからが、真の始まりなのだと思う。

童話の世界のような物語。青が特別なものであり、頻繁に出てくる。一章はモノローグがほとんどを占めており、主人公の葛藤や心境変化などにスポットがあてられている。じっくり読む童話といった印象。
”美しいだけでは人ではない。醜いものも受け入れてこそ、人は人になれる”このような意味合いの言葉があるのだが、主人公の成長が伺える部分でもあると感じた。二章からがいよいよ主人公の旅となる。この先どんなことが待ち受けているのだろうか? あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。
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