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エピソード文字数 597文字


 ――“胸の前に親指を外側に出して手を握る。”
『さ』

 ――“親指を立て、他の4指を揃え指先を左に伸ばす。”
『く』

 ――“手のひらを下に向けた左手の甲を、右手の手刀で軽く叩き、左手はそのまま、右手の手刀を上に上げる。”
『ありがとう』

 これは平成の世で……
 紗紅と一緒に習った手話だ。

「於濃の方様……!?お待ち下さい!待って……美……」

(さらばじゃ)

 私は紅を部屋に残し襖を閉める。
 女の着物を身につけた紅は、私を追うことは出来ないだろう。

 顔を伏せ小走りに安土城を抜け出し、(うまや)で白馬の手綱を握った。

 乗馬も剣術もいざという時のためにと、輿入れ前に斎藤道三の屋敷で光秀に教わった。まさか、役にたつとは思ってもいなかった。

 夜は更け、周囲は薄暗い。
 1人で城を抜け出し、夜の闇に飛び出すことに不安はあったが、それでも私は馬を走らせずにはいられなかった。

 何故なら、明智光秀は備中高松城攻めに向かわず、謀反を起こし織田信長を自害に追い込み天下人となる。だがすぐに羽柴秀吉に返り討ちに合うからだ。

 本能寺を襲撃する光秀を、何としてもこの手で食い止めなければならない。

 それが私の使命だから。

 ――紗紅……
 私が紗紅の愛する人も……

 私の愛する人も……
 必ず助けるからね。

 だってあなたは……
 私の大切な妹だから。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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