さいご

文字数 423文字

「外に出してあげたかったの」
だんだんぼやけていく目の前で、悲しそうな遙の声がする。
「それでここから解放されるから」
解放って何だろう。……とても眠い。
立っていられない。
ああ……見えなくなってきた黒い視界に記憶がまた、廻る。
「あ、ワタシ……わダジ」
衝撃音、誰かの叫び声。
苦しい。
身体中で鼓動が唸る。
焼ける。熱い。痛い。
痛い。見えない。熱い。
また、叫び声。
声が出ない。声が出ない。声が出ない。
……息が……出来ない。
胸元を掻きむしりながら、屈んでいくしか出来ない私の耳元で声がした。
「眠って良いよ」
そうだ、眠いんだ。
「忘れていいんだよ」
忘れて良い……。
ずっと繰り返される赤い記憶の上へ、優しく黒い靄がかかり始める。
……眠い。
生々しい感触が遠ざかって感覚も消えた。
羽虫の羽ばたきの音が耳の中から頭を満たし、次第に全てが薄れていく。
ただ。
「またね」
その言葉、は、最後に聞こえ、タ。

ワタし、ガ、なナツめ。
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