第25話 母親の視点
文字数 1,668文字
明美は明美の家で優和と会うことに、あまり気が進まなかった。
でも優和が子どもを昼寝させている間に話したいと言うのを聞き、やっと合点した。
優和は自分の家では部屋が一つしかないから昼寝させても話せないというのだった。
それは明美にはない母親の視点だった。
明美は優和のまさに母親らしい姿を見る度に自信がなくなるのだった。
母親になるにはそこまで自分を犠牲にしなければならないのか。
その疑問に大人になり切れていない自分を知り、嫌になった。
でも子どもが欲しくないわけではなかった。
子どもが好きだった。
中学生までは将来の夢は幼稚園の先生と答えていたくらいだ。
でも優和と会うたびに優和とはあまりにも違う自分の姿に落ち込むのだった。
もしかして正人も同じだったんじゃないか。
明美は自然とそう思うようになった。
勇が家に入るときに、靴を揃えているのを見た。
4歳児になると、ここまでできるようになるのかと感心した。
でもすぐにそれが勇だからできることだと気づいた。
勇は大人びていた。
というよりも子どもらしくないと言えばいいのだろうか。
この前は気づかなかったが、必要以上に喋ることをしなかった。
それは大人に気を遣っているせいではないか。
そう感じさせられてしまうくらい、勇には雰囲気があった。
その姿がどこか正人を思い出させた。
「勇、そろそろお昼寝した方がいいんじゃない?」
時計が2時をまわったところだった。
「保育園ではもっと早く寝かせているんだけどね」と優和は話した。
勇を別室で寝かせた後、明美が「勇君、すごくしっかりしているね」と話すと、優和は寂しそうに「私がそうさせちゃったんだ」と話した。
明美がそれはどういうことか聞こうか迷っていると、優和が悲しそうな表情をしていたため、聞くのをやめた。
「明美にどうしても話しておきたいことがある」
明美はただならぬ雰囲気は感じていたが、まったく想像つかなかった。
「勇のお父さんは、本当は正人なのかもしれない」
明美は混乱した。
明美は自分が嘘を信じてしまいがちなのをよく自覚していた。
冗談だと思った。
「いやいやいや」
明美は冗談っぽく言ってみた。
優和は真剣な表情のままだ。
「認知はしてもらってる。それは正人じゃない」
明美は意味が分からなかった。
確かに頭がいい優和ならお金をだましてもらうくらいのことはできるような気がした。
それに子どものこととなると優和は何でもしてしまいそうな気もした。
ついその思いが口に出てしまった。
「お金が欲しくて、嘘ついたってこと?」
できるだけ冗談っぽく言ったつもりだったが、優和の口調は思いのほか真剣だった。
「そんなこと・・・」
優和は驚き、すぐに言葉が出ないようだった。
それとも、言葉を選んで明美に伝わる言葉を探していたのかもしれない。
「そうじゃなくてずっと正人の子どもじゃないと思っていたってこと」
先日、勇が原因不明の発熱が続いたため、血液検査をした。
そのついでに血液型も調べてもらったというのだ。
血液型はB型だった。
それは認知してもらった相手だったら有り得ない結果だった。
しかしその可能性について勇には伝えていない。
勇にはすべて優和が今まで事実だと思っていたことのみを話しているという。
それは優和が子どもを一人で産もうと思ったことから、正人が勇の父親ではないということを含め、全てだ。
さすがに今回の件はまだ話せていないというのだった。
優和は続ける。
「でも正人には勇の父親はできない」
だからこのことは正人には伝えてほしくないと優和は言った。
それならばなぜ明美にその秘密を教えるのか。
明美には優和の気持ちが分からなかった。
これは本当に嘘ではないの?
でも明美は気づいていた。
勇の耳の輪郭はぎざぎざしているのだ。
それは正人の耳と同じだった。
でも優和が子どもを昼寝させている間に話したいと言うのを聞き、やっと合点した。
優和は自分の家では部屋が一つしかないから昼寝させても話せないというのだった。
それは明美にはない母親の視点だった。
明美は優和のまさに母親らしい姿を見る度に自信がなくなるのだった。
母親になるにはそこまで自分を犠牲にしなければならないのか。
その疑問に大人になり切れていない自分を知り、嫌になった。
でも子どもが欲しくないわけではなかった。
子どもが好きだった。
中学生までは将来の夢は幼稚園の先生と答えていたくらいだ。
でも優和と会うたびに優和とはあまりにも違う自分の姿に落ち込むのだった。
もしかして正人も同じだったんじゃないか。
明美は自然とそう思うようになった。
勇が家に入るときに、靴を揃えているのを見た。
4歳児になると、ここまでできるようになるのかと感心した。
でもすぐにそれが勇だからできることだと気づいた。
勇は大人びていた。
というよりも子どもらしくないと言えばいいのだろうか。
この前は気づかなかったが、必要以上に喋ることをしなかった。
それは大人に気を遣っているせいではないか。
そう感じさせられてしまうくらい、勇には雰囲気があった。
その姿がどこか正人を思い出させた。
「勇、そろそろお昼寝した方がいいんじゃない?」
時計が2時をまわったところだった。
「保育園ではもっと早く寝かせているんだけどね」と優和は話した。
勇を別室で寝かせた後、明美が「勇君、すごくしっかりしているね」と話すと、優和は寂しそうに「私がそうさせちゃったんだ」と話した。
明美がそれはどういうことか聞こうか迷っていると、優和が悲しそうな表情をしていたため、聞くのをやめた。
「明美にどうしても話しておきたいことがある」
明美はただならぬ雰囲気は感じていたが、まったく想像つかなかった。
「勇のお父さんは、本当は正人なのかもしれない」
明美は混乱した。
明美は自分が嘘を信じてしまいがちなのをよく自覚していた。
冗談だと思った。
「いやいやいや」
明美は冗談っぽく言ってみた。
優和は真剣な表情のままだ。
「認知はしてもらってる。それは正人じゃない」
明美は意味が分からなかった。
確かに頭がいい優和ならお金をだましてもらうくらいのことはできるような気がした。
それに子どものこととなると優和は何でもしてしまいそうな気もした。
ついその思いが口に出てしまった。
「お金が欲しくて、嘘ついたってこと?」
できるだけ冗談っぽく言ったつもりだったが、優和の口調は思いのほか真剣だった。
「そんなこと・・・」
優和は驚き、すぐに言葉が出ないようだった。
それとも、言葉を選んで明美に伝わる言葉を探していたのかもしれない。
「そうじゃなくてずっと正人の子どもじゃないと思っていたってこと」
先日、勇が原因不明の発熱が続いたため、血液検査をした。
そのついでに血液型も調べてもらったというのだ。
血液型はB型だった。
それは認知してもらった相手だったら有り得ない結果だった。
しかしその可能性について勇には伝えていない。
勇にはすべて優和が今まで事実だと思っていたことのみを話しているという。
それは優和が子どもを一人で産もうと思ったことから、正人が勇の父親ではないということを含め、全てだ。
さすがに今回の件はまだ話せていないというのだった。
優和は続ける。
「でも正人には勇の父親はできない」
だからこのことは正人には伝えてほしくないと優和は言った。
それならばなぜ明美にその秘密を教えるのか。
明美には優和の気持ちが分からなかった。
これは本当に嘘ではないの?
でも明美は気づいていた。
勇の耳の輪郭はぎざぎざしているのだ。
それは正人の耳と同じだった。