「小さい人」と信頼関係を築けますか?(前編)

文字数 2,656文字

取り扱うべき話題かどうか迷ってたんだけど……一度「あたしおかあさんだから」という曲から離れて、作者(作詞者)の言動について触れておこうと思うの。
なぜ迷っていたんですか?
「あたしおかあさんだから」という曲に関わる問題の理解とは直接関係ないし、論点がばらけてしまう恐れがあると思ったのよ。

でも、世の中の他の出来事や物語によって読み解き方がつくられるという話をした以上、同じ作者が他に書いたものや話したことの影響は無視できないし、何より……。

何より?
「あたしおかあさんだから」の炎上は、同じ作者の絵本などによって苦しめられている人がいることも詳らかにしたわ。だったら、その苦しみをどうやって解決していくか、はいつか誰かが考えなきゃならないよね。それを避けて通るべきではないと思ったの。でないとアドラー先生に「人生の嘘」って言われる気がする。
わかりました。お手伝いします。
ありがとう。

それで、たぶん、触れなきゃいけないのは、「ママがおばけになっちゃった!」ね。

母子家庭の母親が交通事故で死に、幽霊になって、4歳の息子と再会する、というお話ですね。
ええ。でも、母親の幽霊が出てくる物語だったら前例がある。

佐藤智一の漫画「ゴーストママ捜査線」は、警察官だった母親の幽霊とその息子が協力して事件を解決する物語で、テレビドラマにもなっているわね。

えっと、それはコロコロコミックとかの類ですか?
掲載誌はビッグコミックオリジナル増刊だから、大人の男性向けではあるわね(いずれも小学館)
もっと低年齢向けの例はないんですか?
かなり古いけど、森田拳次の漫画「丸出だめ夫」の主人公の母親は亡くなっていて、父親の作ったロボット“ボロット”は彼女の幽霊とコンタクトできる、という設定だったわね。最初の掲載誌は週刊少年マガジンで、リメイク版がコミックボンボンに掲載されたこともあるそうよ(いずれも講談社、ただし秋田書店から出版の単行本あり)テレビドラマと、テレビアニメになっているわね。
それでも、まあ、小学生が対象ですよね。
少なくとも、おひさま(小学館、3歳~対象)や、たのしい幼稚園(講談社、4歳~6歳対象)のような雑誌で展開されたものではないわね。
適切な年齢というものがあるってことでしょうか……。
もちろん、発達の仕方は人それぞれではあるけれど、「うちの子は大丈夫だったからよその子にも大丈夫」みたいな考え方は危険よ。
食物アレルギーみたいですね。
そうね。だから、幼児に関わる仕事をしている人たちは、とてもたくさんのことに注意を向けている。例えば……保育所、つまり保育園の仕事をする上でのルールとして、厚生労働省が保育所保育指針という文書を作っているの。最近新しい版が公開されたわ。
保育所保育指針解説というのを見たら、374ページもあるんですね。
もちろんこれは序の口で、保育士になろうとする人は、この何十倍ものことを勉強しているはずよ。久恵里ちゃんが保育士になりたいなら、後でじっくり勉強してもらうとして、ここでは、幼児の心に関する考え方を見ていきましょう。
はい。
19ページにある、「保育の目標」から2つ読み上げるわね。

「(ア)十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること。」

「(ウ)人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと。」

久恵里ちゃん、この中から、幼児の心に関係のありそうなキーワードを抜き出してみて。

目標の(ア)からは「情緒の安定」、

目標の(ウ)からは「愛情」「信頼感」「人権を大切にする心」「自主、自立及び協調」「道徳性の芽生え」、

こんなところでしょうか。

いい感じね。じゃあ次に、「情緒の安定」のために保育所は何をすべきか、ということを、詳しく見ていきましょう。
えっと、38ページに「情緒の安定」という項目があります。

解説部分にはこうあるわね。(強調引用者)

「一人一人の子どもが、保育士等に受け止められながら、安定感をもって過ごし、自分の気持ちを安心して表すことができることは、子どもの心の成長の基盤になる
子どもは、保育士等をはじめ周囲の人からかけがえのない存在として受け止められ認められることで、自己を十分に発揮することができる。そのことによって、周囲の人への信頼感とともに、自己を肯定する気持ちが育まれる。特に、保育士等が、一人一人の子どもを独立した人格をもつ主体として尊重することが大切である。」

目標の(ウ)に少し重なっている気もしますね。
それじゃあ次に、目標の(ウ)に関する部分を見ていきましょう。「3歳以上児の保育に関するねらい及び内容」だけ見るけど、211ページの「イ 人との関わりに関する領域「人間関係」」がそれね。
どれどれ……。
これも解説部分を読んでみましょう。(強調引用者)

「人と関わる力の基礎は、自分が保護者や周囲の人々に温かく見守られているという安定感から生まれる人に対する信頼感をもつこと、さらに、その信頼感に支えられて自分自身の生活を確立していくことによって培われる。

保育所の生活においては、何よりも保育士等との信頼関係を築くことが必要であり、それを基盤としながら様々なことを自分の力で行う充実感や満足感を味わうようにすることが大切である。」

これも、「情緒の安定」に近いことが書かれていますね。安定感と信頼感があってこそ、心の成長ができるみたいな……。
ええ。この指針は、幼児との信頼関係を重視しているわ。「信頼」という単語が88回出てくるくらいに。(筆者調べ)
でも、信頼関係って、どうやったら築けるんでしょうか?
226ページの解説には、

「保育士等は子どもと向き合い、子どもが時間をかけてゆっくりとその子どもなりの速さで心を解きほぐし、自分で自分を変えていく姿を温かく見守るというカウンセリングマインドをもった接し方が大切である。」

と書かれているわね。あとは、ちょっと戻るけど、128ページの解説に、

「子どもは、保育士等からの心地よいと感じられる行為によって、
人への信頼感を得る。」

とある。

うーん、もうちょっと、具体的な話はないんですか?
保育所保育指針はあくまで指針だから、具体的な話を求めるのは難しいかもね。もっとこう、お手本になりそうな話を見つけてくる必要がありそうね。探してくるから、その間休憩していてちょうだい。
はーい。
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登場人物紹介

久恵里(くえり)

主に質問する側

せんせい(先生)

主に答える側

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