詩小説『ホテルサーヴァント』3分の少女物語。一寸先は闇。二寸先の光へ。~第2話~

エピソード文字数 1,479文字

 ここ最近、上手に自分の感情をコントロール出来なくなっている。さっきまで、とてつもなく癒されていたと思ったら、今度はたちまちこの世界に絶望してしまったりして。なんだか私の中に、私がもうひとり居るみたいだ。
 こんな時、本当にどうでも良いようなことを考え込んでしまう。例えば、この部屋に私が入るひとつ前、どんな人が泊まっていたのだろうかって。誰と誰が、どんな経緯で、どんな言葉を交わしていたのか。どんな物語があったのだろうかなんて。
 私がこの部屋に入った時点で、他の客が使っていた形跡、気配は一切消されている。そこには一切の余韻がない。もしかしたら、三十分前まで、誰かが居たかもしれないのに。
 何日も同じ服を着ていることに慣れてしまった私が怖い。まるで排水溝に溜まった髪の毛みたいだ。溜まってしまっても困らないから、掃除なんてしない。そんな日々を積み重ねて。
 こんなはずじゃなかった私。小学生の頃はごく普通の女の子だったはず。特技は縄跳び。好きな食べ物は黄粉餅。目立つタイプではなかったけど、友達もそれなりに居て、人望もあったはず。
 でもこの頃からだったはず。姉との格差を感じる様になったのは。姉はとびっきり美人って訳でもないし、勉強がクラスで一番だった訳でもない。私と出来はほとんど変わらないはずなのに、両親が愛したのは姉だけだった。
 姉の誕生日には親から水玉模様の自転車が贈られた。私の誕生日には裸の現金五千円。私が公園で遊んでいるのを見計らって、父と母、姉の三人で外食へ出かけていた。
 姉が持たされる弁当は卵焼きにウインナー、ブロッコリー、黄色のふりかけ。絵に描いたような愛情たっぷりの弁当。私が持たされる弁当は昨日の夕食の残り、揚げ過ぎた失敗作のから揚げ。
 次第に家族の会話も父と母と姉で廻るようになり、私が家で言葉を発することはなくなってしまった。
 挙句の果てには年賀状も父の名前の横に母と姉の名前。私の名前は書かずに送っていた。
 中学になると、母親は三人分のみ夕食を作る様になった。私はというと玄関先に毎日置かれている千円札を使い、コンビニで夕食を買う日々。
 私が家へ帰り、リビングへ入ると、あれだけ盛り上がっていた食卓は静まり帰る。私に視線を合わさぬ様にうつむいている。だから私は玄関先の千円を握り締めて家を出て、ひとり公園で時間を潰し、家族皆が寝静まるのを見計らって帰る様になった。
 久々に見かけたひとつ上の姉が着ていた真っ赤なコートがなんだか無償に羨ましく思えたのを今でも憶えている。何故、あんなにも輝いて見えたのだろうか。
 高校の進学希望届けも、保護者の名前欄を自分で書いた。少し字を変えてこっそり引っ張り出した判子で印を押した。お金の掛からない公立の学校を選んで、バイトで誤魔化し、誤魔化ししのいでいた。
 その日、何年かぶりに両親へ声を掛けた。
「教材費と、体験学習の宿泊費なんだけど」
 最大限の勇気を振り絞り、そう小さい声で言った。
「......。」
 私の声が聞こえているにも関わらず反応がない父。
「それでさ、昨日のことなんだけど」
 構わず話を続ける母。
「透明人間が喋るな」
 背中を向けて姉がそう言った。
 私は、急いで階段を駆け上がり、自分の部屋へ非難した。
 心臓の方で、何かがぷつぷつと弾けているのが分かった、それは血の様にぽとぽとと零れ落ち、水溜りを作っていく。
 いったい、私と姉は何が違うのか? 何もかも似たような物なはず。何故姉だけが愛されているのか? 何故だ? 何故だ? 何故だ?
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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