scene-3 海底迷宮の巫女

文字数 1,090文字



 水深八千メートルの超深海層の海底。その地下に張り巡らされていた、迷路のように複雑に入り組んだ洞窟群。

 どこからともなく現れて、淡い光を放ちながら浮遊している小さなオーブ。
 彼女はそのオーブの動きが、一緒について来いと言っているような気がしてここまでやって来た。
 そこは(ほの)かな光に満たされた広い空間だった。オーブはその上空でくるくると、踊るように旋回している。

「ここに連れて来たかったの?」
 オーブを見上げてそう(つぶや)く。淡い光がくるりと一回転した。

 その場所は自然が創り出した空間のようにも見えるが、明らかに人の手が加えられていた。
 人……いや、現在地上を支配している人類とは違う、別系統の生物の可能性もある。だが、知的生命体であろう事は確かだ。

 周囲の巨大な岩肌には、精緻(せいち)荘厳(そうごん)な彫刻が一面に(ほどこ)されていた。岩壁を削って彫られた多くの彫刻は、奇妙な姿の生物らしき物が多い。海洋生物の形状に似てはいるが、似て非なるものだ。

 一際(ひときわ)目を引くのは大きな祭壇らしき構造物だ。この空間は祭祀(さいし)や儀式などを()り行う神聖な場所なのかもしれない。

 彼女がそんなことを考えていた時、突然無数の火が祭壇に(とも)った。青白く揺らめく炎だが、油や蝋燭(ろうそく)などの燃焼物は見当たらない。何本もの太い針が斜めに突き出た、黄金の皿のような器具から炎が立ち昇っている。炎は熱を発していないようだ。

 この空間に繋がっている幾つかの通路のうち、祭壇の横から伸びる暗がりから淡い光が差し込んできた。光は徐々に強くなる。光る何かがこの空間に近づいてくる。光はオーブの輝きに似ている。

 彼女は息を飲んだ。通路から現れた者の姿に一瞬我を忘れたのだ。
 神秘的な女性が空中を泳いで来る。飛んでいるのではない。空気の中を泳いでいる。
 究極の美とはこういう事なのかと思わせるほどの、その者の美しさに魅了された。

 女性は祭壇の正面の空中に静止すると、微笑みながら静かに石畳に降り立った。
 女性は淡く発光し、水流が身体中にまとわりつくように、ゆっくりと渦巻いている。羽衣のような薄く白い衣装を上半身に(まと)っている。

 足は……無い。
 人間と同じ形状の、足と呼ばれる部位は無い。
 その代わりに、ブルーサファイアのように(きら)めく(うろこ)が下半身全体を覆っている。それはいわゆる『人魚』の形状をしていた。

 女性は彼女の目を見つめながら、静かな口調で語りだした。
「わたしはこの海底神殿の巫女。数千年前からあなたをお待ちしておりました……」


【『キャラメル味のポップコーンってうまいよな』】
【『塩味と交互に食べると止まらなくなるのよね』】
【『永遠に食べられる、甘辛(あまから)無限連鎖』】


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み