その日、ぼくが教室にはいっていくと、

文字数 667文字

その日、ぼくが教室にはいっていくと、臼井くんが自分の机のまえで立ちすくんでいた。

最初、ぼくは固まった教室内の雰囲気に気づかなかった。
ずいぶんと静かだなぁと思っただけだった。
窓ぎわの自分の席まで歩き、そこでやっと事態を知った。
窓が開いていて、そこから風がはいってきていた。
白いカーテンが風をはらんで大きくふくらんでいた。
 窓にもたれた立っていたクラスメートと目があった。その相手は笑っていた。最大のイタズラをしかけてそれが首尾よくしあがったガキ大将の笑顔だった。
ひどい……。
臼井くんは真っ赤な目をしていた。ささやくような声だった。なのにクラス中に彼の言葉が聞こえた。みんなが彼の言葉を待っていたのだ。耳をそばだてて、彼の一挙一動を見守っていたのだ。
臼井くんはポケットから白いハンカチをとりだした。
そして彼の机の上のものにそっと投げかける。
かわいそうに。
四角くおりたたまれていたハンカチの、ピンと張った生地の質感と、まっすぐな折り目。
長くて綺麗な臼井くんの指が小刻みに震えるところ。
スローモーションのフィルムのようにしてそれらの光景がぼくの視覚にとびこんでくる。
机の上にのっていたなにかの死骸。
動物だったことははっきりしている。死んでしまっていたことも。
死んだ小動物だった。
すぐに白いハンカチに覆われてぼくの視界から消えてしまったけれど。
強い風が吹いた。
ハンカチに包まれた死骸を抱いて教室を出ていく臼井くんの姿を白いカーテンがさえぎって隠した。
ばたつく布地をたぐりよせて、ぼくが走りだそうとしたときにはもう臼井くんの姿はどこにもなかった。
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登場人物紹介

臼井くん
うすい

ぼく
ちょろくて寒い

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