03.【運命の罠】
文字数 6,076文字
彼女がそこまで呟いた時、アダルブレヒトは全てを察した。校長は校内にある全ての部屋の鍵を開ける事が出来る。だが、その暗号を全て暗記しているわけでは無い。勿論、メモが何処かに隠されているわけで。それが校長室に隠されていたとしてもなんらおかしくはないだろう。そして、それを生徒が見つけてしまうのも。アダルブレヒトは肩を落とし、顔を片手で覆った。
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部屋の物を触らない、私室に入らない、誰にもこの事は言わないという条件で、破壊呪文科室への出入りを許可されたエイミーは、廊下の隅でしゃがみ込んでいる柑菜を見つけると、勢い良く彼女の背中に向かってダイブした。
思いがけず大仰に驚く柑菜に、エイミーは大きく目を見開き。彼女の背中に抱きついたまま固まった。しかし、柑菜が廊下の隅に何やらワイヤーのような物を仕掛けているのを認めると、彼女はそれをまじまじと見つめる。
次の瞬間、絡まっていたワイヤーはしゅるしゅると緩んでいき。エイミーの足首から外れ、綺麗に束ねられた。それを見たエイミーは、瞳を輝かせてフレデリックをじっと見つめる。自分も最初から魔法で解けばよかったのではないかという思いが彼女の頭を過ぎったが、今は助けてくれたフレデリックの事しか頭にないようだ。
忙しそうに駆けて行くフレデリックに、頬を緩めながら手を振る。その間もずっと胸は高鳴っており、頬の紅潮は引く気配を見せなかった。エイミーは火照る頬に手をあて、ため息をつく。爽やかな笑顔、艷やかなオリーブ色の髪と瞳。逞しい腕。助けて貰った時のそれを思い出し、エイミーは一人ぼそりと呟いた。
そして静かに、これから何度も感じることになるであろう運命という言葉を噛み締める。
そんな夢見心地の感覚を打ち破るように、先程聞いたバチン!と弾ける音がエイミーの耳に入った。思わず音のした方を振り返ると同時に、一人の女子生徒がゴンと鈍い音を立てて地に伏せる。慌てて駆け寄れば、女子生徒はばっと顔を上げてエイミーを睨みつけると、思い切り表情を歪ませ地の底から出るような低い声で唸った。