第2話 老人ホーム
文字数 1,171文字
僕が育った下町では、パンチパーマにヒョウ柄スパッツ、虎の顔のプリントされた長袖Tシャツを着たオバサンが普通だったので、この高齢者入居施設の、普通に上品な服を着たお爺さんお婆さんたちは「楽勝~」って思っていたんだけど。。。
どうしてなかなか大変だ。プライドが高くて、文句が多い。
その中で異色なのが、サイトウさんだ。
文句は言わないが、口数は人一倍多い。そして、それがほとんど漫談なのである。
今日も今日とて、僕が「具合が悪い、薬が足りない」と騒ぐお爺さんに手こずっていると、すぃーと近づいてきて、話し掛けてくる。
正直、このサイトーさんの相手は、結構面白かったりするのだが、こういう場所で特定の入居者だけを相手すると、えこひいきだなんだと面倒なことになるので、いつも適当なところで切り上げる。向こうも心得たもので、キリのいいところで話をやめる。
時々、僕が彼女の相手をしているのか、彼女が僕の相手をしてくれているのか、わからなくなる。
前にこんなこと言ってたのよ。
『お金がいっぱいあるときに暮らしていくのは簡単。お金がないときの暮らしは、頭を使ってやりくりしなくちゃいけないから、子供たちにはそういうのを教えておきたかったんだけど、ダメだねぇ。ケチだなんだと文句ばっかりで』って。
お金があれば幸せってわけでもないのねぇ
おしまい