取調室にて

文字数 789文字

「僕の名前ですか?僕の名前は五十嵐楓です。」
(名前は佐伯康介)

「生年月日は1986年3月23日」
(1990年1月2日)

「職業はシステムエンジニアです」
(無職)

「〇〇大学に入学し、首席で卒業、(株)〇〇で3年ほど勤めており、社内における営業成績は全国で2番目でした」
(大学中退、経歴詐称で会社に入り、営業担当、多少売上は出すものの、相次ぐクレーム、数ヶ月でクビ)

「その後、会社を辞め、家でフリーランスで働きながら、ボランティア活動を行っています」
(アパートからも追い出され、ホームレスに、老人にあの手この手で粗悪な商品を売りつけた詐欺師)

容疑者に話を聞くが、事前に仕入れた情報と何一つ同じ話が出てこない。
話を聞くだけ無駄そうだ、と刑事は5分程度で判断していた。

「ご老人の方々は、足が悪そうでした、私鍼灸師の免許を持っていまして、足を見るだけで大体わかるんです」
「その日ですか?僕の友人である、〇〇会社の社長とパーティに参加していました、〇〇ホテルのフロントに聞いてみてください」
「弁護士の友達がいますので、彼に連絡を取ってください、話は早いと思いますよ」
「両親はもう亡くなりました、僕を庇って、トラックに轢かれたと聞いています」

「そうですか、わかりました、また改めて話聞きますので」
うんざりした顔で刑事は取調室から出た。

禁煙であることをわかってはいるが、非常口を開けて煙草を吸う。
取り調べの後はどうしても煙草を吸わないと落ち着かない。
特に今日は落ち着かない。
あいつは現実と嘘が混同している、どころではない。
もはや別世界の住人と話しているような気分だった。

「嘘も繰り返せば真実になる…?そんなわけねえだろ」

刑事は煙草を地面に落とし、革靴で踏みつけた。
その後、舌打ちをして、吸殻を指で拾い直して、携帯灰皿に入れた。
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