第8話 時の旅人

エピソード文字数 2,136文字

俺は茂のヤサでもう一眠りと決め込んだ。
黒介は俺と一緒にお留守番だ。黒介がいねぇと圭吉のヤサまではたどり着けねえからな。

昼過ぎには目を覚した。時計は1時ちょぃと過ぎている。さすがに日中には、狼の黒介を連れて歩けねぇんで、ヤサに残してひとり町中をお散歩だ。

あちらの時代から着込んできた真赤なTシャツと迷彩の半ズボンは、ちょぃと目立ち過ぎるので、茂治からもらった高級そうな絹の漆黒の着流しに雪駄をつっかけて外に出た。

腹が減ったんで昼飯を食いたい。金はもちろん茂の戦利品から遠慮なく拝借した。俺たちは兄弟だからな。

町中をぶらつく。行き交う若い姉ちゃんたちに、つい目を取られちまうのは、悲しい男の性だ、まあ許してくんねぇ。

顔が長くて、目が細く切れ長な浮世絵みてぇな女衆を予想していたが、いやいやどうして目鼻立ちがハッキリした可愛い姉ちゃんがほとんどだ。

スタイルも胴長短足、胸は洗濯板と勝手に確信していたが、とんでもねぇ!
俺のいた時代よりも、よっぽどスタイルも良いし、単の着物を押し上げる胸のデカさも、なかなかのもので一安心したぜ。

姉ちゃんたちに見とれながら町をぶらつく。
やっと見かけた茶屋に飛び込んだ。

腕時計は間もなく2時を指している。この時代は確か1日2食、朝の8時に朝食、そして午後の2時に昼食。夜食はねぇ時代のはずだ。

昼にたっぷりと食いまくって、夜は寝るだけなんて、つまらねぇ時代だぜ、まったく。

茶屋に入ったものの、はてさて何を頼んでいいのか、全くわからねぇ。周りを見回す。

雑炊らしい食い物を丼で流し込んでいるヤツ、団子みてぇなものを口に放り込んでいるヤツ、うどんもどうやらあるみてぇだ。

「粋な兄さん、何になさる?」

まだやっと10代後半位の若い姉ちゃんが声をかけてきた。美少女と言うよりもう既に大人の色気を感じるのは、やはりこっちの世界のせいだろうか?

「そうだな、うどんを頼まぁ」

「うどんは味噌味?塩味?どっちかしら?」

「おう、姉ちゃんみてぇに美味そうな味噌味といこうか。とびきり美味いやつ頼むぜ」

「冗談止めとくれよ。信じちまったら責任取ってもらうよ!」

二重瞼の色っぽい流し目。おいおい、こっちの方が参っちゃうぜ。多分寿命が短いせいか成長も早えのかもしれねぇな・・・・・

間もなく美味そうな香りを漂わせた味噌うどんが、粗末な木卓に置かれた。ネギだか大根だか混じった汁に、太めのうどんがたっぷりと浸っている。

啜り上げると、こいつぁイケる。煮込まれて柔らかくなったうどんが良い味出してるぜ。

腹っぺらしの俺の胃の中に、あっという間に消えるうどん。周りを見ると、他の客も次々に追加でおかわりし放題の状態だ。

確か戦国時代の頃は2食で、特に昼飯は雑炊や玄米飯を5杯位は当たり前に食らっていた、みてぇな記事を読んだ記憶がある。

俺も敗けずにうどんを7杯程、胃の中に流し込んで、しきりと色目を使う茶屋の可愛い姉ちゃんの目線を後に店を出る。

黒介にも、何か食い物を持って帰らねぇといけねぇな。

道端に猟師らしい小汚え格好をした野郎が、獣肉をゴザの上に広げているのを見かけ、縄で縛り吊るした兎肉を5羽買い込んだ。金はいくらでもあるからな。

兎肉をぶら下げながら、来た道をぶらぶら戻る。もちろん行き交う人間さまたちの観察はきっちりこなしながら・・・・・

おっ、アイツは何だ? 何者だ?
3mほど前を歩く男の姿が目に付いた。

何か腕元をのぞき込んでいる。その姿がまるで時計をのぞき込んでいるように見えた。
急いで男を追い抜き、相手に気づかれないように、さり気なく振り向き確認する。

まだ20代中程位だろうか。この時代の野郎にしちゃ妙に垢抜けしている。やはり時々腕元をのぞき込む。

歩くのを止めて男の前に立つ。突然、目の前に俺が立ち塞がったので、思わず俺の胸にぶち当たった。

「あっ、すいません!」

「おう、兄ちゃん、ちょぃといいかな? 話がしてぇんだけどな」

「な、なんでしょうか?」

ビクつきながら俺の顔をのぞき込んだ。気が小さそうな野郎だな。

「ちょぃと腕を見せてくれねぇか?」

有無を言わさず男の左手をぐっと掴み、腕を確認する。おい、おい、やっぱ腕時計してやがるぜ。しかもダイバーズウォッチだ。

「兄ちゃん、随分良いもの身につけてるじゃねぇか。これはどこで手に入れたんだぃ」

「いやこれは、私が自分で作った機械で刻を刻む機械です」

「おめぇが自分で作れるわけねぇだろ。しかもダイバーズウォッチだぜ」

「何を言われているか、分かりかねますが」

「とぼけんな。おめぇも『時の旅人』か?」

「えっ、『時の旅人』って・・・・・」

明らかに動揺していた男の目の前に、左腕を突き出した。左腕には俺の自慢のコレクション、コルムの腕時計、バブルのジョリーロジャーが得意気に煌めいている。

「あっ、あなたは・・・・・?」

「おめぇと同じ『時の旅人』だ。別世界からこの世界に飛び込んで来たって訳だ」

「信じられない。ボク以外に別の世界から飛び込んで来た人がいたなんて!」

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