人格者な魔王は人間に復讐を始めます 〜それを止めるは異なる世界の者たちです〜 

文字数 2,566文字

依澄つきみ 様作

あらすじ引用
「ーーくたばれ人間……!」

傷だらけの男がとある王国で処刑の時を待っている。そんな彼は俗にこう呼ばれている

ーー魔王と

300年間人間に迫害を受け続けてきた魔人族。彼らは裕福ではなかったものの、その穏やかな性格からか人間を恨むこともせずひっそりと暮らしていた。
そんなある日、人間の国から1通の国書が届く。内容は「魔人と人間の和解」であった。永劫叶わぬ夢と思っていた彼らはこれを了承するが、それは人間達のかけた罠であった。失意と絶望の中、妻もろとも公開処刑をされる魔王。そしてその後、ついでと言わんばかりに魔人族の国は襲撃され、王子とその妻は拘束、その他国民はまとめて火炙りにされてしまう。何も守ることができず絶望する王子。目の前で妻を処刑され、ついには自身すらも首を落とされた。
そんな時、彼のもつ《ユニーク魔法が》発動する。そのユニーク魔法とは『遺品回収(アド・メア)』。この魔法の効果により復活を果たした彼は、文字通り魔の王として君臨し、人間に復讐を始めるのだった。
そんな魔王を止めるため、王女が提案した解決策、それは異世界から勇者を召喚することだった。幼い頃からこの魔法に興味を持っていた王女だが、この魔法には生贄が必要だった。そのことから使いあぐねていたが、「これなら堂々と使えるわね!」と意気揚々に、自身の知的欲求を満たすために勇者たちを召喚するのだった。
「ーー勇者様、この世を混沌に陥れようとする魔王を討伐ください!」
そんな薄っぺらな言葉に翻弄され、勇者たちは魔王討伐を実行することとなる。
復讐を誓う魔王と、何も知らぬ無知の勇者の戦いが始める。

【簡単なあらすじ】
ジャンル:異世界ファンタジー
人間に迫害され、300年間ひっそりと暮らしてきた魔人たち。裕福ではないものの平和に暮らしてきた。そんなある日、人間の国から一通の手紙を受け取る。それは願っても叶うことはないと諦めていた”人間と魔人族との和解”への導きとなるはずであった。しかしそれは罠だったのだ。

【物語の始まりは】
魔王がある国の王に囚われ、恐らく牢獄であろう場所から始まっていく。妻だけは逃して欲しいと懇願するも無下に断られ、更に暴力を受けてしまう。二時間後に迫った処刑。彼は人間に対し、恨みの言葉を吐きだした。

【舞台や世界観、方向性(箇条書き)】
この物語では大きく人間とモンスターに種族が分類されている。
その中でも魔人族は異質。見た目などは人間と変わらず、性格は温厚だがその身体を形成しているものは違うようだ。そして寿命は人間の二倍。
人間との相違から忌み嫌われ、辺境の地に追いやられはしたものの二年前までは平和に暮らしていた。

【主人公と登場人物について】
300年経たれていた人間との交流。人間の方からある一通の手紙が届く。他の者たちが歓喜に沸く中、主人公だけが訝しんでいた。恐らく彼だけであろう、疑いを持っているのは。父である王が出向くこととなる。それを何とか阻止し代りに、あるいは護衛として一緒に行くことを望んだが断られてしまう。

身に覚えのない罪を着せられ殺されていく魔人たち。一方的に恨みを抱く、人間側の騎士団団長。魔王よりも魔王らしい王女。この世界は王女の策略により転がされている印象。不思議なことに、人間が惨殺されても全く心の痛まない物語である。それほどに人間の汚さや傲慢さ、自分勝手な言い分が見るに堪えない。魔人を応援したくなる物語だ。

【物語について】
二年前に何があったのか語られていく。主人公となる当時の王子は、幼馴染みに何度も求婚し断られていたが、やっとのことで承諾を得て婚約が決まったところであった。彼の婚約に至るまでの経緯を知るものは多く、国民は彼を祝福していた。それから二年後、彼の妻は子を授かり国中が歓喜に沸いていた。
それだけではなかった、300年ぶりに人との交流が行われようとしていたのである。しかしそれは罠であった。

国王と王妃は生きたまま帰ることはなかった。父の言葉通り、王となった主人公は国民の気持ちを一つにすることには成功したものの、人間からの盗聴に気づいてはいなかった。彼が王座に就いてからしばらくして、人間たちが攻めてきたのである。

【良い点(箇条書き)】
・魔王に肩入れしたくなる物語である。
・平和な時の日常が丁寧に描かれている為、彼らが襲撃を受ける様子などが更に地獄に感じる。憎しみを抱くには十分なほど惨劇がしっかりと描かれており、人間側に憎しみを抱いてしまう。主人公と共鳴してしまう物語だと感じた。
・読者から見ると、騎士団団長はなにか王女に騙されているのではないか? と疑念を抱く。しかし本人は気づかず、そのまま王女に従っており、もしその事実を知ったなら、どうなるのだろうか? と色んな末路を想像してしまう。
・権力を持ち、自分を偽り、人を騙して己の自由にしようとする人間は怖いなと感じた。そういう恐怖の対象を描けることが凄いと感じる。

【備考(補足)11ページ目まで拝読。
【見どころ】
登場人物の描き方が凄い物語である。人間とは、弱い者ほど攻撃的である。つまり、傷つけられるのが嫌だから先に傷つける。害虫の駆除と似ていると感じた。まだ何もしていないうちから恐怖を抱き、殺傷するのが人間である。
彼らが魔人を畏怖するのも、彼らの能力に恐れを感じているから。しかし彼らは温厚であり、迫害されてもそれを受け入れていきた。慎ましやかな生活でも耐えてきたのだ。彼らが望むのは、世界征服でもなければ、人間を虐げることでもない。幸せな日常だったと思う。
しかし人間は違った。自分と違う者を受け入れることができない。これはまさに、多様性を受け入れることができず、偏見を持ったりイジメの対象にしたりする現代社会と変わらないなと思った。いや、人間は現代に限らず、そうやって他人を迫害してきたのだ。人間の心の弱さ、身勝手さなどが描かれており、復讐として人間を殺める魔人を応援したくなる作品である。(犯罪を推奨しているわけではありません)そのくらい感情移入しやすい物語だと感じた。
この後、いよいよ何も知らない勇者たちが召喚されてくる。果たしてどのような展開を見せるのだろうか? 
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