次作予告

文字数 1,577文字

「なー何読んでんのー?」
「……幻精霊についての本」
「あーなんかここ最近、世界中でふよふよしてるやつだよな」
 ジェイムは太陽に向かって指を伸ばす。すると、揺らめく光が集まっていく。その光は宝石のアクアオーラの様に、透明感のある水色の光である。
「お、ここにもいた! 蒼! こいつなんて言ってんの?」
「……今日はお祭りしないのだって。お前がイリューの練習しないのが気になっているみたい」
「おおーじゃあやるかー」
 ジェイムは軽い返事をする。今日も加護の村に雷が撃ち落とされた。

 蒼たちは、十数年前に蒼が初めてイリューを使ってなぎ倒された、村一番の大木の跡地にいる。
 木が無くなってだいぶ経っても、二人のお気に入りの場所である。
 ジェイムはイリューツを使い果たし、芝生に倒れる。見上げた空はどこまでも青かった。
 しばらく空を眺めていると、小鳥がこちらに飛んで来るのが見えた。
 ジェイムはその瞳がラピスラズリ色であることに気が付くと、鳥が留まりやすいように指を差し出す。
 小鳥が指に留まると、ジェイムはゆっくり立ち上がり、蒼に見せに行く。
「蒼! 小鳥だぞー!」
「……いつも思うけど、たまに動物連れてくるのなんで?」
「えー? 小鳥だからー?」
 いくら聞いたところで、笑ってはぐらかすことを蒼は知っている。
 理由を聞くのを諦め、肩に乗ってきた小鳥に頬ずりをする。
 小鳥も一緒に頬ずりをしていたが、突然自分を思い出したように勢いよく飛び立っていった。
「あ、いっちゃった……」
 蒼は小鳥が飛び立った空をずっと眺めていた。

「でも不思議だよなー幻精霊はどこからやってきたんだろう?」
 さきほどから周りを浮遊している幻精霊を、ジェイムは不思議そうにつつく。
 『幻精霊』とは、十数年前から世界中で現れた、謎の発光生物である。何故現れたのかも、何をもたらすかも未だに分かっていないが、幻精霊が見えるのはイリュー使いだけであり、意思疎通のレベルはイリュー使いごとに違うことは解明されている。
 イリューツの多さで意思疎通のレベルが決まる訳ではないようで、ジェイムは見えて呼べる程度で、蒼は会話ができる。
「うーん。香さんとかに聞いたら分かるかな?」
「それは絶対にイヤ」
 香と聞いて蒼は一気に眉間にしわが寄る。
 即答されたことにジェイムは大笑いする。
「お前、まだ反抗期やってたんだ」
「……反抗期じゃない」
「まあ、いいけど……反抗期は出来るうちにやっとけ」
 ジェイムが笑う。
 その顔は、少し悲しげに見えた。
「……なんか、ごめん」
「うん? 何が?」
 蒼はジェイムの姉、マリアンヌが数年、体調を悪くて入院していることを思い出す。
 毎日会えなくなったジェイムは寂しいのかもしれない。

「それよりさ! 誰かに聞けないなら、俺たちが解明しないとな!」
 蒼が悲しそうな顔をするからジェイムは話題を変える。
「何を?」
「幻精霊だよ! 俺たちで幻精霊の真実を暴くんだ! そして蒼は、そのいつも身に着けてる本に書けよ!」
 ジェイムは蒼の太ももあたりに収納されている、一冊の本を指さす。
「いや、これは……」
「それ、文字は書かれてなくて真っ白なんだろ!」
 この本は蒼が『ある人』に貰った本で、ジェイムが言う通り何も書かれていない。
 ある人に『何か』を書けと言われたのだが、蒼はそれを忘れてしまい、いつまでも白紙のままであった。
「な! 完璧だろ!」
 ジェイムは面白いことを見つけた時みたいに、にやりと笑う。
 何をテキトーなことをと思いつつ、蒼もなんだか面白そうに感じてきて、わくわくした顔でにやりと笑う。
「じゃあ、これは俺たちの冒険書になるね」
「おおー! かっけぇー!」
 周りの幻精霊が嬉しそうに揺れる。


 この世界は幻精霊のように、不思議なことがいつまでも生み出されていく。
 その幻想世界(イリュージョン・ワールド)で少年たちは、未来を創り出すのだ。
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