「今回は実際に韻がどう役立てられているのかを解説します」

文字数 4,092文字

 こんにちかわいい女の子は登場しません。私です。

 このお話も5回目ということで、1回目から読み始めた方で生き残っている方はごく少数と思われます。ようこそ選ばれし戦士よ。1回目では韻を踏みながら説明するというキチガイ染みた思いつきに付き合わされ、2回目以降はマシになったと思ったら意味不明なうんちくを聞かされるという苦行を体感し、ここまで来てようやく慣れてきたと思います。読者の皆さんが心身ともに成長されているようで感激の至りです。思わず目頭が熱くなるというものです。嘘ですが。

 今回は実際に韻がどう役立てられているのかを解説します。この話を聞いて「たしかに役に立つな!」と感心していただけた方はこの続きもご愛読いただきたく思っておりますし、「別に役には立たんな」と興味がなくなった方はさっさと読むのをやめた方が時間の有効活用になるというものです。今回はいくつかに分けて説明しておりますので、下記の目次を参照ください。なお今回は前回までで説明したことを前提に話しますから、覚えていないという方は読み返した方がよいでしょう。

1.歌詞

2.広告・タイトル・キャッチフレーズ

3.空耳

4.詩・俳句

5.ことわざ・標語

1.歌詞

 HIPHOPの歌詞のみが韻を踏んでいるわけではありません。皆さんが普段聞いているメジャーな曲でも韻は踏まれています。あなた方がおバカだから気付いてないだけで。

 バカ呼ばわりは心外だと抗議されそうですが、AKB48ファンの中に「ヘビーローテーション」歌詞内の「ハイテンション、ヘビーローテーション、イマジネーション」という韻に気づいてる人が何人いるのでしょうか。POP系の曲は自然に踏み、かつ多用しないので気づかれませんが探せばいくらでも見つかります。歌ってる本人方も韻と気付いてないパターンまでありますからね。作詞をしている秋元さんも「韻が耳に残りやすい」ってことに気づいているから使っているわけです。そしてこの事は業界人の間では常識中の常識なのでわざわざ語られることもなく、一般人で何も考えていない読者の皆様には伝わらないわけです。

 英文歌詞ですとPOP曲だろうが「韻なんて踏んで当たり前さ」と言わんばかりに踏みまくっています。「エンダアアア」でおなじみ、ホイットニー・ヒューストンで有名な「I Will Always Love You」の歌詞をご覧いただきます。


If I should stay, I would only be in your way.

So I'll go, but I know.

I'll think of you every step of the way.

(引用:I Will Always Love You)


 はい踏んだ。全世界でシングルを1500万枚売り上げた超有名曲でも韻は踏まれています。ここまでの事があるのにも関わらず、大抵の方々は韻の重要性に気づいていません。良かったですね皆さん。ここまで真剣に読んでいるあなたは勝ち組ですよ。え? そんなことない? うるせえ、これでも喰らえ!(発砲)

2.広告・タイトル・キャッチフレーズ

 「コカ・コーラ」などの最たる例が示すとおり、聞いた者にその言葉を印象付けたい場合は、韻を踏むのが自然に実行できてベストです。「テル入てる」などは英語版のキャチフレーズ「intel inside」の韻と連動した憎い演出ですね。最近ですと新作アニメの「ポプテピック」の主題歌が「POP TEAM EPIC」というそうで、不完全ではありますが韻として認め得るでしょう。

 商品を売り込むにあたって韻が有用だということを述べましたが、マンガや小説のタイトルだとそうでもありません。なぜなら比較的短文で、かつ内容の魅力を明確に伝える必要がありますから、韻を踏んでいる余裕がないわけです。1文字でも惜しいタイトルで韻を踏んでいる余裕がないのは当然ですから、皆さんも韻を踏む時はよく考えてください。初心者がやると韻を意識しすぎて失敗する可能性大ですので、慣れてないうちはタイトルなんて重要なものに使うのはやめましょう。そして、それらのタイトルには「調」を重視したほうが有用そうです。調については後述。

3.空耳

 空耳も韻です。著名な空耳シリーズにテニスの王子様ミュージカルの「あいつこそがテニスの王子様」という曲がありますが、最初のセリフは本来「越前……お前は青学の柱になれ!」であるにも関わらず、空耳歌詞では「H前……お前は青学の恥なんやで!」と吹き替えられています。こういった空耳も「柱になれ(aiaiae)」を「恥なんやで(aianae)」という似た音の響きに変えた韻であり、空耳も韻として認めることができます。この「聞き間違い」を生かすと笑いも狙えるため、お笑いなどでも独特な聞き間違いで笑いを誘うことがあるようです。お笑いにも使えます。

4.詩・俳句

 こちらは門外漢なので詳しいことは述べられないのですが、詩や俳句にも韻は使われることがあります。というかこれに詳しい場合、私は何かしらの論文を作ることができてしまうのではないかという話になります。もうそこまで行ったらHIPHOPじゃなくて日本文学の領域じゃないですか。ちなみに韻に関する論文があるのかと調べてみた結果1件見つかりましたので、参考URLに載せておきます。.pdfで閲覧可能です。いやあ、先駆者っているもんですねえ!(生き生きとした表情で)

 こちらの2つでは、韻よりも文字数を合わせる「調」(俳句だと5・7・5)が重視されますので日本ではあまり使われません。もう文字数が合っているので音楽的な響きは確保されており、そこに韻を加える必要がないわけですね。ただし日本語ではない詩、欧米の詩や漢詩などではよく使われるようです。

 17世紀ごろにフランスで流行したとされる「題韻詩」は、決められたルールで韻を踏み、その巧みさを競う遊びだったそうです。要するにMC(ラップ)バトルですね。平安期の歌合なんぞ目じゃありません。シェイクスピアでさえ韻を理解し詩で踏んでおりますから、この手の分野を志すのに韻を知らないでは通らないのではないか、と調べを進めている内に感じました。英詩では割と当然のように韻が踏まれまくっているのですが、日本人に韻って浸透しなさすぎなのでは……? 世界基準だと韻は知ってて当然なのかもしれません。さらなる調査が必要でしょうか。

 また、掛詞(ダブルミーニング)も韻と相関関係が深いといえます。同じ言葉に2つの意味を持たせるというものですが、この「同じ言葉」は韻を考えるのと同じ作業であるはずです。

 掛詞と韻は近いという根拠として、ラッパーも時折掛詞を使います。KEN THE 390というラッパーの「Turn up」という曲で共演したSKY-HI(AAA 日高光啓)のある歌詞には「390には心からの感謝」とあります。これは「390には(サンキューまるには)」と、KEN THE 390という名前だけでなくサンキューという意味もあるわけです。またMCバトルにおいてはR-指定vs晋平太でR-指定が「ただな 貰った菊の花蹴っちまった 牡丹(ボタン)の掛け違いで薔薇薔薇(バラバラ)になった筋 でも桜(サクラ)はいないだろ お前みたいなMC死人に梔子(口なし)だ」というラップを披露しており、これらはご覧の通り全て植物とかかっています。しかもその前のバトルで貰った菊の花を晋平太が蹴り飛ばしたことの流れを汲んでのこのセリフです。予め考えていたストックであることを祈りましょう。これらは韻の延長で掛詞になった例ですね。

5.ことわざ・標語

 韻は音の響きを良くして人々の耳に残りますから、大衆に覚えさせたい標語・スローガンなどではうってつけです。災害時に使われるスローガン「押さない、駆けない、喋らない」は語尾を「ない」で統一してる他、文字数(調)も統一されておりよく耳に残る構成となっています。ことわざに関しては英文のことわざに顕著です。「No pain,No gain.(蒔かぬ種は生えぬ)」や、「Better late than never.(遅れてもやらないよりはまし)」などは分かりやすいですね。こういった標語を作る際にはぜひ韻の採用を考えてみては。

 いかがでしたでしょうか。たぶんここまで1字も漏らさず読み進めた方はいないだろうと勝手に思い込んでいるのですが、当方も素人ですので「ここはこうではないか?」という指摘があれば甘んじて受け入れる所存です。では次回はこの内容ですと言って締めたいところなのですが、あいにく次回の内容は考えておりませんので、このまま言うことがなければ完結する可能性もあります。ひとまず、ここまで読了お疲れ様でした。いや、読了してる人がいないとは思いますが。

参考URL

http://user.keio.ac.jp/~kawahara/pdf/音韻的ラップの世界.pdf

↑音声学の観点から韻について調べた論文です。10年以上前のもので、難しい数字の話も出てきてなにやらですが参考までに。


 『日本語学』2017年10月号にはこちらの論文を焼き直ししたもの(日本語ラップの韻分析再考二〇一七 川原繁人──言語分析を通して韻を考える──)が発表されており、こちらよりも読みやすくなっております。[m]と[n]は音が似ているので韻の相性が良い、など興味深いことも書かれておりますのでぜひご覧ください。注釈に「ダジャレでも似たような研究をしたが、その場合日本語ラップはダジャレだと受け取られかねないのでこの場ではやめる」とありますが、つまり「日本語ラップはダジャレじゃない」ということであり、間接的ではあるものの論文上でハッキリとこの論に否定が入ったことは拍手を贈りたい出来事です。また、「韻はダジャレじゃない」という表現をしなかったのはもう「韻がダジャレなわけがない」という前提と解釈できますので、こちらも喜ばしいことです。

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登場人物紹介

印野 踏子(いんの ふみこ)

HIPHOPが好きな女子高生。

最近OZRO SAURUS(オジロザウルス)を聞いてドハマりし、

ファッションもラッパーっぽくしているが、普通に校則違反。

門司 書子(もじ かきこ)

小説家志望の女子高生。

最近スランプになり、解消のため常にノートを持ち歩くことにしたが、

そのノートはただのお絵かき帳へと様変わりする悪循環。

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