第6話

文字数 1,205文字

 オムツってどれを買っても一緒なのかな? でも赤ちゃんのやわ肌には、ふわっとしたオムツがいいよね。
 ドラッグストアでの滞在時間が長くなったなあ。揃えるものが増えたし、おまけに安いし。仕方がないけど。あ、昌平にシェービングクリーム頼まれたんだ、それも買わなきゃ。
 スマホが鳴った。寝ている泰稚(たいち)が起きちゃわないか焦ったけど、大丈夫だった。ママからだ。
「もしもし?」
「もしもし、奈々?」
「なに? どうしたの⁉︎ 泣いてんの?」
「ごめん、奈々。あのね、あのね…」
「なに、ママ、どうしたの? 落ち着いてよ」
「うん、あのね。洗濯物、部屋干ししてたんだけどね…。…窓際にいたリュウタが、リュウタが、息をしてないのっ」
 頭が、真っ白になった。
 リュウタ。初めて会ったのは、私が小学校の頃。友だちのゆいりちゃんが飼ってた柴犬が可愛くて、私も柴犬が飼いたいって、お父さんに駄々をこねたのが始まりだった。
 いつも一緒だった。外で遊ぶのが好きだった。雨の日は元気がなかったね。ボールを投げると必ず取ってきて、一緒に鬼ごっこもしたね。
 私が落ち込んで滑り台にいると、下から見上げていて、降りると寄り添ってくれた。
 スマートフォンを初めて買ってもらって、嬉しくて、スマホばっかりいじってたら、スマホ咥えてどこかに走っていった。怒ったらその後いじけたみたいに、ボール遊びしてたっけ。
 浜辺にも出かけた。砂浜に穴を掘って、砂をかけられたなあ。夕日を見ていて、リュウタに抱きついたら、口を舐めてきたっけ。
 私が初めて家に昌平を連れていったら、なんか拗ねてたよね。ヤキモチかなとか思って。でも、泰稚が産まれたら、尻尾振って嬉しそうにしてた。
 実家の玄関のドアを開ける。泰稚はまだぐっすり寝てる。よかった。
 リビングにいるママが、泣いている。
「リュウタ‼︎」
 思わず、声に出していた。
 リュウタ。触ると、少しだけのぬくもりが伝わってきた。リュウタが生きていた証。
「リュウタ」
 涙がたくさん出てきた。涙と一緒に、変な声も出た。安らかな寝顔だ。起きるんじゃないかって、錯覚するくらい。
 とめどなく流れる涙が止まらない。こんなに、こんなに悲しいんだね。
 別れっていうのは。
 走馬灯みたいに、リュウタと過ごした日々が蘇る。だって、昌平や泰稚と居た時間より長かったから。
 思い出がありすぎて、つらくなる。
 最近、食欲もなくて、元気ないと思ってたけど。
 ゴメンね、リュウタ。最期に側にいてあげられなくて。
 もう一度、リュウタを撫でる。ほんのり温かい部分と、冷たい部分がある。この身体で、リュウタは私と一緒に生きてくれた。
 リュウタ、幸せだったのかな? 私と一緒にいて。
 私は、幸せだったよ。リュウタと出会えて。
 リュウタ、今まで、本当にありがとう。たくさんの幸せをありがとう。どんな時も、リュウタがいたから、寂しくなかったよ。
 さよなら、ありがとう、リュウタ。
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