時事ネタ テレワークとかんせんしょうたいさく

文字数 1,781文字

 まさかこんな事になるとは、思わなかった。
 だって、日本だけじゃない、世界中だよ。

 マスクや消毒薬が手に入らなくなって、外出だって自由に出来なくなった。
 会社もほとんど出社しなくて良くなり、もっぱらテレワークだ。

「一家に一台、じゃなくて一人に一台……だねぇ。パソコン。棲み分け、どうしようか」
 うちは、キッチン、洗面等の水回り関係を除いてリビングと主寝室に使っているお部屋ともう一つ、子どもが出来た時用に空けてあるお部屋……いわゆる2LDKマンションという奴である。

「私はここでも良いけど……。あ、でも会議入る時は、個室が良いかも」
「だよねぇ。僕もそんな感じだから、Web会議入る時だけ空いてる個室使うとして……。会議がガチッた時は、要相談って事でいいかな」

 そうやって、ルールを決めて、普段はお互いのパソコンの画面が見えないように、向かい合わせでテーブルを使うことにした。
 うちの方の開発は、ほとんど止まっている。
 現物を見て検証しないといけないものがあるのと、後はセキュリティーの問題。
 デスクワークは多分うちの会社の方が少ない。

 私は、自分の仕事が一段落した時に、チラッと拓海くんを見た。
 真剣な顔をしている。普段、私に見せている子供っぽい顔じゃない。
 ちゃんと、大人の男性なんだなって思う。いや、当たり前なんだけど……。

 うん、ちょっとカッコ良いかな?

 ついつい、ボーっと拓海くんの仕事をしている姿に見入ってしまった。
 拓海くんが、ん? って感じでこちらを見る。
「何? 疲れた? コーヒーか何か入れようか?」
 そう言いながらもう席を立ってキッチンに向かっている。
「あ、私やるから。拓海くん、忙しいんでしょ?」
「座ってて。僕も一段落してコーヒー飲もうかなって思ったんだから」

 しまったなぁ、これもルール決めとくべきだった。
 放っておいたら全部、拓海くんが動いてしまう。

「はい。どうぞ」
 拓海くんが私にコーヒーの入ったマグカップ渡してくれた。
「ありがとう。次は私が入れるね」
「うん」
 拓海くんは、にこやかに返事をくれる。
 そして、コーヒーを飲みながらまた真剣な顔をして仕事に戻っていった。

 何か不思議。平日のこんな時間に家に居るなんて……。
 それも、拓海くんと居るのに仕事をしているなんて。
 だって、これが休日ならのんびり家で過ごすか、どこに行こうか……って感じで、どちらからともなく、外に誘い出している。
 二人でいるのに、何か静かで不思議な感じ。

 顔を上げると拓海くんと目が合った。
「何か良いよね。こういうのって」
「何が?」
「目の前に美桂ちゃんがいて、仕事している美桂ちゃんをずっと見ていられる」
 拓海くんは、優しい目で私を見ているけど。

「このまま閉じ込めちゃいたいよね」
 うん。言ってることは物騒だ。
「仕事、煮詰まった?」
「仕事は順調なんだけどね。なんとなく、ずっと一緒って中々ないから」
「そうねぇ。こんな機会でもないと、平日までずっと一緒なんて無いかもねぇ」

「外出も、食料品買いに行くときくらいだから、事実上、軟禁状態だよね」
「そうだね」
 拓海くん、無駄にニコニコしているけど、何が言いたいんだ?
「僕ねぇ、こう思うことにしたんだよ。美桂ちゃんを自宅に軟禁して、監視しているって」

「…………は?」
 何言ってんだ? こいつ。
 ヤンデレ? メンヘラ? そっち方面、全開でいく気?
 いやちょっと今、意識が飛びかけたというか、頭が真っ白になりそうになったというか。

「だからね。美桂ちゃん」
 拓海くんは立ち上がってテーブル挟んで、私の頬を触ってくる。
「買い出しや、身の回りの世話は、僕に任せてね」
 へ?
「美桂ちゃんを外に出して、疫病の餌食になんかさせれないよ。せっかく会社も出社しなくて良くなっているのに」
 ああ、いつもの拓海くんだ。
「いや、拓海くんがかかっても、私にうつるからね。感染症なんだから……」

 う~ん、困ったねぇって拓海くんは唸っているけど。
 仕方ないって思うのだけどね、外に出ないわけにはいかないし。
 多分、出社してって言いだしてくるのは、うちの会社の方が早いと思うし。

「そう……だねぇ。私が拓海くんを軟禁しているって考えるのも有りだよねぇ」
 拓海くん、ええ~って顔してるけど。

 まぁね。不謹慎だとは思うけど、どんな状況になっても楽しまなきゃだよね。
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