第25話  予期せぬ来客 

エピソード文字数 3,321文字



 ※


じゃあ帰るわね。今日はありがとう
あぁ。お前ならいつでも勝手に来てくれていいから。いいだろ親父?
聖奈ちゃんなら大歓迎だぞ。また今度一緒に飯でも食いに行こう
やっぱり親父も、入れ替わり体質を知る者には優しい。
では麗華さん。今度またゆっくりと

だな。じゃあな平八。また連絡する。

うちの子供達もよろしく頼むぞ

聖奈ねぇちゃん。平八さん! またね~~!
うん! またね。華凛ちゃん。楓蓮。

夕方五時過ぎ。ようやく聖奈と平八さんが帰るのを、玄関先まで見送る黒澤家であった。



さ~~て。親父。お前に聞きたいことがある。


なぁ親父。平八さんとどういう関係なんだよ。

えらく仲がいいみたいだけど。

昔の友達というか後輩だな。まぁまた今度話してやるよ

いいから話せって。どんな関係だったんだよ?


入れ替わり体質も知ってるし。深い関係なのは分かるが……

興味があるのは……


どうやって入れ替わり体質をカミングアウトして、仲良くなれたのか。それが気になるんだ。


今後の参考の為にも聞いておきたくてな

普通の仲の良い関係だって。それだけだよ
 いい合いながらリビングに戻ってくると、ちょっと座れと言うので、華凛と一緒にテーブルの前に座る。






 正座で背筋を伸ばす親父にこちらも同じような態勢となった。


 物々しい雰囲気にすぐに気が付く。



楓蓮。華凛。すまんが……また長期的に家を空ける
そう言われた瞬間、すぐに声を張り上げていた。
……またか。おい! いい加減にしろよ

 即座に反発していた。


 またか。という時点で察して欲しいが、当然これが初めてではない。

 中学の頃から親父は、家に帰ってくることが少なくなっていた。


 何をしているかも教えてくれないので、俺が怒るのも当然なのだ。

今度は半年くらいかかるかもしれん。


それまで楓蓮。お前に全て任せる。華凛は楓蓮のいう事は俺の言葉だと、そう思え

お前……

待てよ。何勝手に決めてるんだ。

高校に上がる前までは暫く家にいるって言っただろう?


それに華凛も……今が一番大事な時期だぞ。六年で転校してきて、次は中学だって言うのに……


お前がいないでどうするんだよ!

何かあれば平八を頼ればいい。それは今日伝えてある。


あいつは俺達を絶対に裏切ったりはしない。だからお前らも……俺が居ない時は平八に相談すればいい

おい! 無視すんな! 聞いてんのか? 俺は華凛の事言ってんだよ!

 久しぶりに頭の血管が一本切れちまった。


 怒鳴り散らす俺に、親父はただ黙って聞いているだけ。

 

 そこで華凛が俺の腕にしがみ付いて叫びだしたのだ。

お姉ちゃん。もういいよ! 私。学校でも頑張るから。


それに平八さんや聖奈ねぇちゃんもいるから。だから……怒らないで

華凛……
この仕事が終わったら……今度こそゆっくりすると約束する
ああそうかい。俺はもう、その言葉に期待してねぇから

 お前は、いつもそうやって俺を裏切ってきたんだ。


 いて欲しい時に、親父はいつも居なかった。

もう勝手にしろよ。俺。バイト行ってくるから

ああっくそ。胸糞悪い。

せっかく聖奈達と話しあえたのに、つまらん事ばかり言いやがって。くそったれ親父が!

楓蓮。すまんな……
そう呟く親父は、とてもつらそうな顔をしていた。

時折その顔を見せられると、俺は黙って強制的に心を落ち着かせようとする。

分かってるよ。分かってるから……

親父にだって色々あるんだろ?


口には出さないが、きっとこの入れ替わり体質のせいで……何か世間的につらい事があるのかもしれないと思うと、それ以上言えなかった。


家にいる時は、とても優しくて、俺達の気持ちを分かってくれる唯一の存在だからな。


それが分かっているだけに……だからこそ悔しかった。


この大事な時期に華凛を放っておいて、そんなに仕事が大事なのかよ!





ああっ。腹が立つ。


親父はいつも突然言ってくるものだから、こっちは頭切り替えるのに大変なんだ。


俺がどんな思いで……お前の帰りを待っているのか知らないんだと思うと余計に腹が立つ。


俺は別にいい。


高校生活はとりあえず順調だし、上手くやれる。そんな気がするし、手ごたえも感じられる。




問題は……華凛だ。

六年生で転校してきたビハインドは、とてつもなく大きい。


クラスの人間はみんな長い付き合いをしてきたはずだ。

そんな中に、華凛は一人で転校してきたんだ。


あいつは学校の事をあまり喋らないが、非常につらい立場に立たされているのは火を見るより明らかだ。



しかも華凛はとても内気であり、人との付き合いが苦手だ。

だから前の学校でも友達も出来なかったし……



以前の学校では大勢の同級生達に、いじめられた事もあった。

だからこそ! 今が一番大事な時期なのだ。


華凛が学校で上手くやれるかの瀬戸際なのに。


それなのに……あのバカ親父め。




ああもうっ考えるだけでしんどい。あまり考えるな。


そろそろ頭を切り替えねば。

落ち着け。頭を冷やせ。ほら。喫茶店が見えてきたぞ。



おはようございます!
おっ。楓蓮ちゃん。おはようっ


 じいじに挨拶し白竹さんや魔樹に一礼すると、先程までの怒りモードを完全に封印する。

 そして愛想笑いを発動し、ささっと更衣室に入る。



 さぁ、ここからは黒澤蓮ではなく、白峰楓蓮として振舞わなければ。





 さて、今日も喫茶店「エスペランザ」は中々の盛況ぶりだ。


 新規開店してから結構良い感じにきてるんじゃないか? 

 ただ、仕事中はマジでハードなので新しいアルバイトが来てくれるのを期待していた。


よっしゃ!
 背中のボタンも装着完了。

 これで……龍子さんにリードしたかもしれん。そう思うと勝手に顔がニヤけてしまう。



 メイド服に着替えていざ出陣。どこからでも掛かって来い。


 


 勝手に配膳やオーダーを取るのは昨日と同じ流れだった。それに対して誰も何も言ってこないので、俺は好き勝手に動いていた。


 誰でも出来る仕事ゆえに、馬鹿にできないというか、まずはこの基礎をちゃんと覚えないとな。他の仕事もさせてくれないだろ。


楓蓮さん。今日……龍子さん休みなんです
あらま? マジっすか?

 配膳に回る魔樹が教えてくれる。


 そう言えば来てないな。どうしたんだろう。

四十度の熱があるらしくてな。昼頃連絡があったんじゃよ
と、じいじが横から説明してくれる。
ありゃま。そりゃ大変ですね

 昨日あんなに暴れまわってたのに、風邪でもひいちゃったんだろうか。

 まぁ熱があるならご愁傷様としか言いようがない。



 よし。龍子さんには悪いが……

 ここで俺はレベルアップし、差をつけねば。


 などと人の病気につけこんで、そんな事を考えてしまっていた。



 結局、魔樹と一緒にオーダーを取ったり、店内を激しく動き回ってると、ふと気がついたことがあった

あの、魔樹さん。昨日も思ったんですけど、白竹さんが厨房なんですね?


初日は確か魔樹さんだった気が……

ん? あぁ……えっとね。ぶっちゃけ適当です。


どっちも料理できるから。どちらでもいいんですけど、その日の気分で決めてます

そ、そうなんですね
特に理由は無かったのか? 
どうして?

い、いや。白竹さんはプリティメイド衣装なのに、彼女が接客した方がいいんじゃないかって、客観的にそう思っただけです。


あっ、でも魔樹さんもイケメンだし。そういう意味ではどっちでもいいですけど

なるほど。確かに美優の方がいいだろうね。

でも僕達は二人で今日はどっちにする? みたいに決めてます。じいじも何も言わないし

そんなノリなんですね
あっ。レジしてくる。後はお願い
はいっ!


 う~ん。なんというか……


 今日の魔樹もクールだな。初日見せたクネクネダンスはどうしたんだろう。

 むしろ厨房で鼻歌を歌ってる白竹さんのがクネクネしてるし。


 もしかして。あの厨房に行けばみんなクネクネしだすのかもしれない。

 じいじだって厨房の中じゃクルクル回ってるし。



 白竹さん一家は結構謎だらけだ。 


 


 そんな時、カランコロンという音と共に喫茶店に入って来た人間がいた。


いらっしゃ……いらっしゃいませ~

 突然の事態に、挨拶まで途切れちまった。


 何とか顔に出さずに愛想笑いを発動したが、内心穏やかではなかった。




 なぜならその人物とは……


 高校でのお友達である染谷くん。その人だったからだ。



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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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