ミステリアス?

文字数 496文字

「なら良かったよ」
 目の前の坂口君は、私から目を一瞬逸らした。
 私はブレンドコーヒーに口をつける。その時には坂口君の視線はこちらに戻っていた。
「コーヒー、飲めたんだね」
「え? そりゃ、飲めるから注文したんだもん」
 おかしく思って笑う。坂口君は笑みこそ浮かべているが、目の奥が揺れているように見えた。
 坂口君は少し、ジキルとハイドに被れているんだろうと最初は思っていた。けれど、被れているという程度には済まないくらいには重症だった。
 私が坂口君の前でだけ分かりやすく態度を変えていただけのことが変に認識されてしまうし、前に坂口君と観に行った映画の主人公ばかり見ていたから、それを真似して髪を胸元よりも長くしてみたのに。坂口君がミステリアスな印象のある子に目を向けていたから、真似していただけだ。
 全部を全部、別の私だと思うなんて、ちょっと違う。
 でもそう言えないのは、言ってしまったらもう一緒にいてくれない未来がよぎってしまうから。
 いやそれよりも、坂口君が鈍すぎる。
 それに尽きる。
「……私、この後用事あるんだ」
 私はブレンドコーヒーをゴクリと飲み干して、坂口君を見ることしか出来なかった。
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