1.オルトランド家・大広間にて

文字数 1,533文字

ここは古城の大広間。居並ぶ執事とメイドたち。
添えつけられた荘厳な玉座が厳格な雰囲気を醸し出している。
退屈ですわね。
玉座には、誰もいない。
(差し出されたティーカップに無言で紅茶を注ぐ)

玉座の横には小さなテーブルとティーセット。

そこに座って優雅に紅茶を嗜む幼い少女。

13才にして十分な気品を漂わせる彼女こそ当該領地・当主代行、リリーア・オルトランドである。
僭越ながら御嬢様。
あら何でしょう執事長?
おくつろぎの所、大変申し訳ありません。
昨日まではそちらの玉座にお座り頂けていたかと存じます。
・・・今日は何故そちらに?
だって退屈ですもの。
仕事は全てアルバトロス、貴方がこなしてしまいますし。
私、そちらに座っている必要はございませんでしょう?
自室に戻っておきたいぐらいですわ。
私が当主様から命じられていますのは、あくまでも事務所作、物事の方向付けのみで御座います。
全ての最終決定権はリリーア様に在りますれば、そのようには参りません。
どうか居られるべき場所にお戻りを。当主の威厳が損なわれます。
では御用の際にはそちらに移りますので。(にっこり)
御嬢様・ ・ ・
おい、ラクトンブレッド。貴様も何とか言ったらどうだ。仮にもリリーア様の専属であろう?
主を嗜めるのも時には執事の仕事であるぞ。
さて、私はリリーア様の望むままに。
当主代行の意思決定に背く裁量はございません故。
・・・無論それは貴殿方も同じと存じますが。
・・・庭師の小僧ごときが粋がるなよ。

ウォルス。

貴様など、本来この場に居る資格はないと知れ。我等に口ごたえなど百年早い。

部屋の隅にでも控えておれ。

控えるのは貴様だウォルス。
ラクトンブレッドは正式にリリーア様から任命されたリリーア様付きの正当な執事だ。リリーア様の命によりここに居り、リリーア様の命で動いている。
・・・貴様、リリーア様のお考えに逆らうか?


い、いえ、そのようなことは・・・
そしてラクトンブレッド、お前も少し配慮に欠けるな。
は・・・

無闇に敵を増やす言動は慎むことだ。

お前の敵が増えるということはリリーア様の敵が増えると同じと知れ。

 
・・・実際にはそれほど短絡的ではないがな。可能性は増える。
主に掛かる危険は可能な限り排除するよう心掛けよ。
かしこまりました執事長。
さて御嬢様。
はいはい、分かっておりますわよ執事長。
御嬢様。
「はい」は一度、それも承知しておりますわ。
結構。ではどのように?

仕方ありませんわね、争いの種を持ち込むつもりは御座いませんもの。

きちんとそちらの席に付かせて頂きますわ。


でも、一日中そちらの席に座っている必要もないのではなくて?
私のする仕事といえば、出来上がった書類に署名をするだけでしょう。そこまでは貴殿が取り仕切って下さいますものね。

お任せ頂けるのでありますれば僭越ながら。

ではこう致しましょう。

午前午後と一時間ずつ、私がこちらに居る時間を決めましょう。

それ以外は自由にさせて頂くということでいかがでしょう?

では御食事前の一時間、11時からと17時からでいかがでございましょう。
結構ですわ。それまでの手続きや書類整理は。
私めが誠心誠意。
一任致します。
お任せあれ。
ではそのように。
流れるように進んだやりとりの後、リリーアは居住並ぶ執事たちをぐるりと見渡し、
さて、他に何か意見のある方はおられますでしょうか?
いらっしゃらないようでしたら、これで失礼致しますが・・・
よろしくて?
実質的な決定権を握る執事長と当主代理が話をまとめたのだ。
口を挟める者がいるはずはない。

それではまた。

執事長、よろしくお願い致しますわね。

どうぞごゆっくり。11時には戻られますよう。
心得てましてよ。
では失礼致します。
こうして、リリーアとラクトンブレッドは大広間を後にした。
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登場人物紹介

リリーア・オルトランド


オルトランド家当主代理。13才の女の子。
現当主である姉が海外へ人材発掘に向かったため、代わりに領地を守る。が、実務は全て執事長に一任されているため、名目上のただの御飾りである。
本人もそれは分かっているため責任感は一切ない。

エイドリッヒ・ラクトンブレッド


オルトランド家に仕える庭師の息子。
幼少の頃からのリリーアの遊び相手であったため、専属の執事として採用された18才。
こちらも名目上の役職であり、一部からは「ごっこ遊び」と揶揄されているが、本人はいたって真面目な性格であるため、執事の職務を全うするための努力を怠らない。

エミリーナ・ミーアキャット


捨て子。リリーアの姉に拾われ、リリーアと共に育ってきた吸血鬼。メイドとして育てられた16才。
ラクトンと3人合わせて幼馴染み。
生い立ちをものともしない能天気。

シュタインリッヒ・アルバトロス


執事長。当主不在のオルトランド家を切り盛りする影の功労者。その人望は厚い。

ウォルス・バーゼラルド


オルトランド家の平執事。若造がコネで出世したのが気に食わない。

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