第四話「カミガカリたち」

文字数 1,865文字

3人が任務を受けた数日後の6月某日日曜10時前。

川中グランドホテルの1階ロビーのカフェに久世竜胆の姿があった。

コーヒーを傾けながら2人を待つ。

進藤まゆみは同じ学校の生徒と教師である上にカミガカリとしても何度か一緒の任務についたことがあった。

氷室護は初めて聞く名だったが、特対にも名が通っている睦月達雄の弟子とのことだった。写真を見たのですぐに分かるだろう。

そんなことを考えていると若い大学生風の男性がカフェに入ってきた。

周囲をキョロキョロと見回している。隠しているがほんの少し霊気を感じた。

彼が氷室護だろう。

お、場所はここらへんだな……ってことはあいつが竜胆かな?

あんたが久世竜胆か?

俺は氷室護、聞いてるかもしれねぇがフリーでやってるカミガカリだ

護も他と違う霊気を感じたのか、竜胆に話しかけてきた。

特対の若いエージェントと聞いていたが、自分より年下とは思わなかった。

物静かで霊気を感じなければ目立たない一般人として目に留めなかっただろう。

ええ、睦月さんから伺っています。

今回、ご一緒させていただきます、特対の久世竜胆と申します。

宜しくお願いします

席から立ち、礼儀正しく深々とお辞儀をする竜胆。

お、おう。

こちらこそよろしくな

腰の低い丁寧な対応にいささか動揺する護であった。


そろそろ集合時間ということでロビーに場所を移す2人。

軽く自己紹介をしながら最後の1人を待つ。

ところでもう1人の進藤まゆみってやつはまだなのか?

もうそろそろ時間だとおもうんだが……

護がそう呟くと、もの凄い勢いでロビーに駆け込んでくる女性が1人。

いつものことなので竜胆は苦笑いをする。

もぉー!

ヒールなんかで来るんじゃなかったわ……こんなにホテルが遠いなんて

本人は独り言のつもりだろうが、随分と大きい。

竜胆はため息を一つ吐いた。

先生……
先生……知り合いなのか?

護は名前くらいしか知らされていなかったので少し戸惑った。

あら、竜胆くんじゃない! 奇遇ねぇ!

じゃなかった、今回はあなたと……彼が?

何故この先生はいつも姦しいのだろうか、毎日何か良いことでもあるのだろうか。

学校7不思議の1つ「毎日元気な進藤先生」について思案しながら竜胆は声をかける。

久世です、先生。


今回の任務はこの3人で、と僕は指示を受けていますが

おう、俺は氷室護。フリーでやってるカミガカリだ!!

ということはあんたが進藤まゆみさんか、これからよろしくな!!

護くんね。私は進藤まゆみよ、竜胆くんと同じ高校で教師をしているわ。

カミガカリとしての所属は聖堂騎士団ね。


私のことは、まゆみ先生かまゆみちゃんで良いわよ~

まゆみの冗談を華麗にスルーして竜胆が口を開く。
揃ったようなので現在、特対の方で確認がとれている情報をお伝えしておきますね

川中市で連続して人が失踪もしくは死亡している事件が発生している。

現在判明している行方不明者などは8人、うち1人は身元不明で死体としてなっていた。

7人は同じ住宅街に住む家族だそうだ。

表向きは行方不明だが、実際は霊魂を抜かれて霊肉化している。

お、じゃあ俺が聞いた情報も

川中十番駅前の古書店で妙に目を引く本が置いてあった。

古書店は老人が趣味でやっている店で、閉まっていることも多い。

失踪事件が発生し始めてからその老店主とコンタクトが取れていない。

一応私が聞いたことも教えておくわね

この土地には土地神と言える存在がいない。

正確には「いた」。

16年前の煉獄の夜にアラミタマと闘い、相討ちになったとされている。

現在、神社跡地の霊脈は聖堂騎士団が管理している。

なるほどねぇ……。

じゃあ、まあ私が最後だったわけだけど、全員揃ったことだし外に出ましょうか。

どこに向かうかは歩きながら話しましょ

考えるよりまず行動のまゆみの提案だったが、竜胆に制止される。

待って下さい、先生。

この場合向かう先は事件の起きた住宅街と古書店の2つが候補に挙がります。

まあ情報を聞く限りとりあえず一番近い川中十番駅から住宅街をしらべてみたらいいんじゃねぇの?
護は事件の解決が主題なので住宅街を推した。

古書店は十番駅より目と鼻の先だったと思います。

まずは十番駅に行き、古書店に寄った後に住宅街に向かうのが妥当ではないでしょうか

そうね、竜胆くんの案が良いと思うわ。護くんもそう思わない?

お、おう。

まあ、良いんじゃないかな

まゆみの迫力に気圧される形で承諾する護。
ここから近い駅は川中十八番駅ですね、行きましょう

ホテルから出た3人は繁華街を通って十八番駅に行き、電車に乗って十番駅に向かうようだ。

その途中で彼らは異邦人と出会う。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

氷室 護(ひむろ まもる) 20歳

吸血鬼の血を引く夜魔で現役大学生。
退魔師協会に所属する新人カミガカリ。
【氷結戦士アイスブルート】として街の平和を守っている。
睦月達雄をおやっさんと呼び、
カミガカリの師匠として尊敬している。

久世 竜胆(くぜ りんどう) 17歳

川中高校に通う高校2年生。
それとは別に環境省特別対策室に所属するカミガカリでもある。
魔術師の家に生まれ、
とある事情から卜部正人に育てられた過去を持つ。
品行方正、容姿端麗、成績優秀と隙のないことから
「超高性能一般人」と呼ばれている。

進藤 まゆみ(しんどう) 28歳

聖堂騎士団所属のカミガカリで暗号名"聖アンジェラ・メリチ"。
天狗の血を引く半妖で川中高校の非常勤講師。
焼けてしまった神社を再建してぬくぬく生きたいと考えている。
現在独身である。繰り返す、現在独身である。

睦月 達雄(むつき たつお)

護の師匠でかつては「魔人戦士デアボロス」と呼ばれていた。
現在はカミガカリを引退し、
「バイクショップ ムツキ」と「喫茶 ムツキ」を経営している。

睦月 サツキ(むつき)

睦月達雄の孫娘。
「喫茶 ムツキ」でバイトをしている。

卜部 正人(うらべ まさと)

環境省特別対策室室長。
竜胆にとって父親のような存在。
任務の度に竜胆の無事を願っている。

テレサ・カラス

聖堂騎士団副長。
年下ながらまゆみの上司にあたる存在。
ニコニコしながら凄まじいことを言ったりする。

スージー

人造神器大好きなクレイジー技師。
ある機関から派遣され、護たちに情報を渡す。

アンジェリーク

暗号名"聖ウルスラ"。
どんな乗り物でも乗りこなせる力を持つ。
性格は適当で戦闘は苦手。

木崎宗次郎

ひょんなことから何故か事件の中心人物となってしまう男。
今回もある商売をしていたところ、事件をおこす。

ジョージ・ヒューズ

アーカム大学客員教授。
ある本が流出した際に行方不明となってしまう。

ウルタール

関西弁でしゃべる猫。
中学生くらいの女の子にも変身できる。
猫を使役して情報を集めているようだが……?

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色