第29話 ロミオとジュリエット!?NHKマイルカップの恋模様(4)

文字数 1,775文字

2020年5月9日土曜、夜のシェアハウスは競馬の住人、大人の王国だ。
リビングのL字ソファーには窓側の短辺には冴と優、その右手の長辺には惠、短辺の向こう正面になるオットマンには果凛が座していた。
午後の京都新聞杯でアドマイヤビルゴを巡って一悶着あったが、果凛の予想に乗った鞍さんは『4万馬券』の3連単を的中だ。
まあ、馬券が的中すれば話は早い。
夜には優も落ち着いて、何時ものシェアハウスの住民たちだ。
鞍さんがセンターテーブルに軽食と飲み物を準備万端となると惠の右へエプロン姿で座る。
果凛はもこもこ素材のパーカーの上下、優はいつものジャージで、萌黄色のタイトスカート、スーツの冴は仕事を一時間抜け出したという。
惠の白Tシャツにネイビーショートパンツ姿を優は新鮮な面持ちでチラ見する。
優が拳銃を所持している冴に仕事の内容を問うが、『言わないよ』とのいつもの微笑で躱される。
まあ、いつもの予想大会の光景だ。
テーブルにはホワイトソースのベーコンとポテトピザ、サーモンとズッキーニのクリームスパゲッティ、シャウルスとパルミジャーノ、スティルトン、モンドール各種チーズ、取り皿とフォークがある。
軽食の両隣に大きな円柱の氷入りのクーラー、左には赤ワインはイタリア産のメルローが二本、右にはお茶のペットボトルが冷やされていた。
鞍さんが促すと、鞍さんと果凛は赤ワイン、惠はアッサムのストレートティー、優がプーアル茶を手にして、銘々が軽食を取り皿に盛る。
これから一晩中の仕事だという冴はお酒飲みたいと駄々を捏ねながら、プーアル茶を手にしていた。
鞍さんが徐に立ち上がる。
「さて、予想大会始めますか」
鞍さんの開催宣言が発令される。
「レシステンシアの刻むラップは如何ほどだと思う?」
早速、グラスを片手に冴が立ち上がって、細い眼で住民の顔を伺いながら挑発する。
「阪神ジュベナイルの時は12.2-10.5-11.0-11.8-12.0-11.2-11.5-12.5ですよね…」
データ担当の優が直ぐに披歴し、このラップで逃げて5馬身差と付け加える。
「…1000m57.5秒。それより速くなるか、です」
「先行勢はラインベック、プリンスリターン、ラウダシオンなど多士済々で怖いよね」
ピザを口に入れる果凛は期待を込めながら馬名を挙げる。
「レシステンシアの楽逃げは期待薄かも知れませんね。ひょっとしたらレシステンシアのハナを叩く馬がいるかも知れないですね」
グラスに口に触れた優がそう予測すると、疑問を呈して皺寄せた顔の果凛が腕を組みながら頬を膨らませて黙り込む。
シャウルスを口に含んだ果凛は逃げ先行馬が好きで、レシステンシアのファンでもある。
優が笑みを浮かべ、テレビをインターネットへとチャネルを変える。
「このレースを観てみますか。ダノンシャンティのNHKマイルカップです」

2010年5月9日、第十五回NHKマイルカップだ。
スタート横一線、五頭が先頭を伺うが、エーシンダックマンが押して先頭。
コスモセンサー、サンライズプリンスが手を動かしながら2、3番手を追走。
ダイワバーバリアンは中段の内、その少し後にリルダヴァル、後方から3番手がダノンシャンティ。
速いペースで、もう3コーナーを迎える。
1000m56.3秒!
4コーナーから直線入口までエーシンダックマン先頭、コスモセンサー、サンライズプリンスの隊列が頑張る。
今度はサンライズプリンス先頭にダイワバーバリアンが襲いかかる。
リルダヴァルは外、ダノンシャンティは大外を押し上げる。
内を選択したサンライズプリンスが抜け、ダイワバーバリアンが追う。
そして、ダイワバーバリアンが先頭かという瞬間。
さらに外からダノンシャンティがサンライズプリンス、ダイワバーバリアンを纏めて切り捨てる。
ダノンシャンティがダイワバーバリアンを抜いて先頭フィニッシュだ。
リルダヴァルが3着になり、先行のサンライズプリンスは4着が精一杯だった。
先行馬は総崩れとなった。
差して、追って抜き、纏めて切り捨てる。
差し馬の入れ替わりの演舞による直線の主人公が変化した。
長い府中の直線の醍醐味の一つで、他の競馬場の直線では見られない興奮だ。
当時、1:31:4は日本レコードの決着でもあった。
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