第3話 再会?
文字数 2,428文字
僕の悪い癖なのだろう。どうしても気になってしまって久世さんに案内されるている途中、自分のことが気持ち悪くないのかと聞いてみてしまった。もし気持ち悪いと思うなら離れなきゃいけないと思ったからだ。そうしたら大声で笑いながら「この国には色んな種族がいると言ったでしょう? 竜胆さんの容姿のが地味だと思いますよ」なんて言うのだ。騙すにしては無理がありすぎるのではないのだろうか、と怪訝な表情を浮かべていたのだろう。久世さんは「大通りの方に行ってみましょうか」と言い案内をしてくれた。
そこでは本当に驚いた。久世さんの言う通り自分の容姿が地味に思えるくらい色んな人が居たのだ。背中から羽が生えている人(天使と悪魔らしい)、獣の体を持つ人(獣人族といい様々な種類がいるらしい)、指の間に水かきをもった体のあちこちに鱗がある人(人魚ではなく魚人族というらしい、その中にはおとぎ話のような下半身が魚の人もいるそうだ)、もちろん髪色だって目の色だって様々だった。
ここでは僕は、僕のことを嫌わなくて済むんだと思ったら嬉しくて堪らなかった。
「そうだ竜胆さん」
「はい?」
「首を触ってみてください」
唐突な発言に疑問に思いながらも自分の首に触れてみる。そして再び驚いた。喉仏くらいの部分に切り取り線のように傷があるのだ。それは項にもありどうやらぐるりと一回り繋がっているらしい。
「こんなのあっちの世界ではなかったのに……」
あったとすれば打撲痕くらいだ。服で隠れて見えない箇所をよく殴られたものだった。今はそんな心配なんてないけれど。
「恐らくですがお亡くなりになられた経緯が原因でしょう。気になるようでしたら手術で消すことも出来ますが、お金がかかりますので、暫くは何かで隠すのがオススメですよ、他の異界落ちの方もそうされてますし」
「そうしてみます」
こくりと頷きながら答えると久世さんはまた、にこりと笑った。
「では今日はこの辺りで、お気をつけてお帰りください」
「何から何までありがとうございます久世さん」
「いいえ、これがお仕事ですから。またなにかお困りの際はお気軽にいらっしゃって下さいね」
その優しい言葉と仕事だから気にしなくていいという発言は僕には嬉しかった。なぜなら前の世界ではコンビニやスーパーとかのレジの人も奇異な目で見てきたからだ。結局あっちの世界には僕の居場所はなかったんだ。まあ、それだから飛び降りたんだけど。
そしてフと、与えられた部屋に帰る最中に彼のことを考える。烏頭といったあの人、僕の手を何も思わずに引いてくれた人、僕のことを気持ち悪がらなかった人。もちろんそれはこの国に色んな人が住んでいるからだろうけど、それでも僕は嬉しかった。
人の温もりを感じたのなんて初めてだったし、肌が触れて嫌な顔をされなかったのも初めてだった。
だからこそ。
「会ってお礼が言いたいなぁ」
それから数週間後(一日が二十四時間なのも元の世界と変わらないのはありがたい)、僕はこの世界のことを学ぶ合間に烏頭さんを探すためにフラフラと色んなところを歩いていた。久世さんにも聞いてみたが「個人情報なので教えることは出来ないんですよ」と言われてしまいそりゃそうだと思い直した。
「もう一度、行ってみようかな」
行こうとしている場所は初めて烏頭さんに会った場所であるあの森だ。どうやらあの周辺に私有地であるブドウ畑があるらしく、そこに立ち入らなければ自由に出入りをしてもいいらしいのだ。
よし、善は急げだ、と。僕は森へ向かって足を進めた。
森には数十分歩くだけで到着し、きょろきょろと周囲を見渡しながら整備された道を歩く。やはりそう簡単に会えるわけがないか。
はあ、と溜め息を吐いた瞬間に背後からがさりと何かが動く音がしたので何だろうと慌てて振り返ると、そこには紫色のふわふわの髪をした7歳くらいの少女がワンピースのようなものを着て立っていた。
「だれー?」
少女は怯えることなくそう訊ねてくる。
「えっと、ぼくは竜胆って言って人を探しているんだ」
「ふーん? どんなひとなのー?」
「烏頭さんって人だよ」
「うず? うずならしってる!」
「えっ」
こっちだよ、と茂みの中に歩いて行く少女に「待って」と声をかけても止まる気配はない。どうしよう、と思ったが今を逃したらダメな気がしたので茂みの中に飛び込み少女の背中を追う。そしてワンピースだと思った服は両脇が裂けており、左右の腰の位置でリボンを結んであるだけだった。
「こっちこっち」
少女は軽やかな足取りで茂みの中を歩き続ける。木の枝や葉がちくちくと当たってくるのだが、彼女は痛くないのだろうか。
そうして数分歩いた所で開けた場所に出た。
周囲にはいくつものつる棚があり甘い香りが漂っている。もしかしなくてもここって立ち入り禁止の私有地というものじゃないだろうか、と。前を歩いていた少女はいつの間にか「ただいまー」と言いながらつる棚の下で作業をしている人物の所へ向かう。あれは、僕が、ずっと、探していた。
「勝手に出歩くなって言っただろう」
「うずーおきゃくさんだよー」
「客?」
少女は「あのひとー」と僕を指差す。そうすると烏頭さんは立ち上がり、僕の方に近付いてくる。どうしよう、突然だったから何を話したら、そうだお礼を言わなきゃ。
「あの、烏頭さんっ。あの時は」
「誰だ?あんた」