第四話 ちょっと借りるだけだから

文字数 709文字

結局夜になってしまいましたね……。
もうダメ……寒い……。あったかいシチューが食べたい……。ふわふわのベッドで寝たい……。お風呂入りたい……。
村の周りをウロウロするばかりで、時を浪費しただけでしたからな。
まさに歳月人を待たず、時は金なり。
こんな時までうっさいわね……。
もう、分かったわよ!
あそこの家の畑から、ちょっと野菜を借りるわよ。
姫様、それは泥棒です。
魔界なら我らがもみ消すことも出来ましょうが、ここは人間界。
余計なトラブルは避けたほうがよろしいかと。
借りるだけよ! いつか出世したら返すんだから問題ないわ。
それに、この隠れ身の指輪さえあれば、見つかりっこないし。
姫様。
隠れ身の指輪は、魔族に対してしか効果がありませんよ。
え? うそ。
じゃあ、人間からは見えちゃうの?
はい、バッチリと☆
なによ、それ。
一体なんの意味があるのよ……。
いわゆる製品の仕様というやつですな。
もう、わけ分かんない。
いいわ、どうせちょっと借りるだけだから、指輪なんてなくても大丈夫! いくわよ!!
姫様……!!
――ガラガラガラッ
!!
……ふむ。
そこにおられるのは、どなたかな?
(ちょっ、アシュタロトが騒ぐから見つかっちゃったじゃない!)
お嬢、ご心配なく。
我に妙案が。
ニャォーン
なんだ、猫じゃったか。
(でかしたわよ、ベリアル!)
なぁに、知略武勇両面に秀でることが百獣の王の責務ですからな。
ほう……黒猫が二匹に……銀色の毛の猫もおるのか。
今宵はたくさんの猫が集っておるようじゃの。
ほれ、隠れとらんで出てきなさい。
(ちょっと、バレてるじゃない! ったく、何が妙案よ!)
ま、まさか我が秘策が通じぬとは……!
姫様、ここは観念して出ていくしかなさそうですね……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

エルスリーゼ
魔王の娘。世間知らずでわがまま放題。

アシュタロト
エルスリーゼの教育係。由緒ある大悪魔だが、姫のおてんばっぷりに手を焼いている。

ベリアル
エルスリーゼの教育係。教育面はアシュタロトに任せて日向ぼっこをしていることが多い。

エチゴヤン

本名は越後屋六右衛門スケヤス。魔界と人間界を行き来して商売をしている。

おじいさん

一行が最初に訪れた村で農業を営んでいる。

魔王

エルスリーゼの父。

ヴィンドルフ

盗賊団『暁ノ狼』の頭領。

クラウス

勇者を目指している少年。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色