第5話 河畔林

文字数 1,070文字

「見てみて。あの水際の木、随分大きいね。それに、ヤナギではないみたい」
「あの林は、河畔林というんだ。河岸に植えられた木で、枝が水上に張り出しているものをさすんだ」
「あんなところに木を植えて、洪水の邪魔にならないのかしら」
「たしかに、水は、流れにくくなる。しかし、それに、代わる良い効果が期待できる」


「良い効果って、どんな効果があるの」
「第1に、河畔林は日陰を作るので、水の温度があがらないので、魚が住みやすくなる」
「それって、木陰にある公園のベンチが涼しいのと同じね」
「第2に、落ち葉は、川底に溜まって、底生生物の餌になる。底生生物には、トンボのこどものヤゴ、カゲロウのこどものカワゲラがいる。ヒル、つりのえさにする赤虫もいる。この中で、好きな虫はいるかい」
「馬鹿なこと、聞かないで。そんな、グロテスクな虫が、好きな人がいるわけがないでしょう。私が好きなのは、蝶やトンボよ」
「底生生物は、河川のお掃除屋さんともいわれる。落ち葉などを分解して、つまり、食べてくれる。底生生物がいないと、川の水は、腐ってしまう」
「なにも、わざわざ、川に落ち葉を入れて分解させるような、面倒なことはせずに、落ち葉を、川に入れなければよいでしょう。あるいは、実際に、公園の人工河川で、毎年、川に入った落ち葉をゴミだと考えて、水をとめて落ち葉を掻きだす管理をしているところもあるわよ」
「たしかに、その方法でも、水のきれいな河川にはなる。しかし、その方法には、問題がある。底生生物は、魚のえさになっている。つまり、魚の立場になって見れば、底生生物のいない川、つまり、落ち葉のない川は、餌のない死の川になる」
「死の川なの。その話を聞くと、少しだけ、底生生物が好きになれそうよ」
「第3に、木の葉に付いている昆虫が、足を滑らせて、水に落ちる。これは、落花昆虫という。さるも木から落ちると同じように、昆虫も木から落ちる」
「しかし、そんなに、昆虫が足を滑らせるものでしょうか。さるが木から落ちる確率を調べた研究は聞きませんが、同じように、昆虫が木から落ちる確率を調べた研究もないでしょう」
「落ちた昆虫の数を調べた研究ならある。それによれば、毎日大量の数の昆虫が落下している。落下して、水に浮いた昆虫はすぐに、魚に食べられる。魚から見れば、水に上に乗り出している木の枝は、昆虫を養っている畑だ。毎日、そこから、ごちそうが落ちてくる」
「あそこに見えるように、河畔林が次第に整備されて来たんでしょう。魚の数も増えてきたはずだったのに、何故、最近は、逆に、魚の数が減っているんでしょう」
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