第4話 お嬢さま、着席する
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慌てた男性客は、そう言って
……聞きようによってはとても危険なセリフであるが、もちろん彼に悪意はないし、ここは当然怪しいお店ではない。
蘭子が『アキバ絶対領域』の店内に足を踏み入れたのを確認して、男性客は、
逃げるように去っていった。
そして、入口に立ちすくむ蘭子を、スタッフのメイドが出迎えた。
他のメイドたちも、口々に「おかえりにゃさいませ」と言って蘭子を迎えた。
彼女にとっては聞き慣れた、『可愛い』とか『お嬢さま』といったワードが、蘭子の混乱をおさめてくれた。
にこやかな顔でおじぎをする女性スタッフ。18、9歳くらいだろうか。
もちろん、コスチュームはメイド服である。裾の広がった短めのスカート。白と黒のツートンカラーだ。頭には猫耳のような飾りが、ぴょこんと乗っかっている。
落ち着きを取りもどした蘭子は、メイドのことをまじまじと観察する。
そして首を回し、店内を見わたす。
白を基調とした内装。パステル調のピンクやブルーがアクセントとして配色されている、ポップで可愛らしい空間だ。
ちなみに言っておこう。
彼女は、こういう色が大好きである。小学校のランドセルも、パステルの水色だった。
しかし、もう『
蘭子は背伸びをして、カウンターの奥へと目をやる。
何度でも言おう。
蘭子は超絶お嬢さまだ。
彼女の部屋は
一般的な飲食店の規模など、彼女の常識の中には組み込まれていない。
促されて、蘭子は席を物色する。
店内には、カウンター席の一番奥に男性が1人、その背後のテーブルに2人組の男性客。小さなステージのような空間を挟んだ席に、女子大生らしき3人のグループが座っていた。
蘭子は奥のほうを避けて、入口付近の、4人掛けのテーブルを選んで着席した。
そしてそこは――
まったくの偶然ではあったが、とある人物にとっては大変都合のいい席だった。
そう……。
道路向かいのビルから、スナイパーライフルのスコープをのぞき込む、とある過保護なメイドにとっては、とても監視しやすい席だったのである。