第172話 ぼっちでもクリスマスイブは楽しめる

文字数 1,766文字


「じゃあどうする? ジャンル変更するか?」
「そうですね。私は最近考えていたんです。センセイにピッタリのジャンルが」
「俺に?」
「ハイ、それはラブコメです!」
「なん……だと?」
 童貞の俺にそんなものを書くなんて、土台無理な話ってもんだ。
「俺には無理……だよ」
 これまでヤクザものしか、書いてこなかったのに……。
 うなだれる俺の肩を白金が優しくポンと叩く。
 ニコッと笑ってみせるとこう語りだす。

「取材すれば書けるでしょ♪」
「しゅざい……?」
「やっぱりDOセンセイみたいな万年、童貞には経験してもらうのが一番でしょ!」
「俺になにを経験しろと? まさかお前……未成年の俺とセックスさせる気か!」
 白金が顔を真っ赤にさせて反論する。
「んなわけないでしょ! なんで私がDOセンセイと……まあそれもいいですけど。私は今フリーですしね」
 よかない。
 それにお前の恋愛なぞに興味もない。キモすぎる生態にも興味はない。

   ※

「取材の内容とは?」
「ずばり! 胸がキュンキュンするような出会い、恋愛でしょう♪」
 それからの俺は素早かった。
「ごめん、用事を思い出した。帰るわ……」
「ちょ、ちょっと待って!」
 小さくてキモい手が俺にしがみつく。

「やかましい! 誰がそんな戯言のためにクリスマスイブの日に来たと思っている! 仕事だからきたんだ!」
「これも仕事ですよ!」
「取材がか?」
「もちろんですとも♪」
 ふむ、どうせこのバカのことだ。
 何かよからぬことでも考えているに違いない。
 だが、俺もプロだ。話ぐらいは聞いてやらないとな。


「仕方ない。とりあえず、お前の提案だけでも聞いておこう」
「そうでしょ、そうでしょ♪」
 ウインクするな、キモいから。
「つまりDOセンセイの作家としての弱点は、以前にも私が指摘したとおり極端すぎるのです」
「極端?」
「はい、つまりセンセイは、現在ほぼ同年代の若者との交流が皆無ですよね?」
 ニコニコ笑いながらサラッと人の悩みを暴露するな。

「で?」
「だから先生には高校入学をオススメします」
 足元に置いていた自身のリュックを取る。
「帰る」
「だから待ってってば!」
 いちいち十代の男子に触れるな! そんなに欲求不満なのか、こいつは。


「絶対に嫌だ。なぜ俺が受験しなかったと思っているんだ!」
「コミュ障だからでしょ!」
「……」
 いや、偏差値は悪くないよ? ただの人間嫌いだからね。

「だから、それを治すためにも高校にいきましょうよ!」
 なんかバカの白金にしては正論だし~
 しかも俺の治療も含まれてるし~  
「断る。俺はちゃんと青春を謳歌しているしな」
 ゲームと映画でな!

「じゃあ今日、このあとの予定をお聞かせください」
 くっ! やはりこのクソガキ、俺に気があるのでは!
「は? なんでお前にプライバシーを侵害されなければならんのだ?」
「言えないんですか? やっぱり可哀そうなイブを過ごすんでしょうね」
 このパイ〇ン女が!
「良いだろう、ならば答えてやる、しかと聞けよ」
「どうぞぉ……」
 だから鼻をほじるな! 一応お前も女だろ!

「この後、博多社を出たらまずは『自分プレゼント』を選ぶのだ!」
「は? 自分プレゼント? なにそれ、おいしいの?」
「おいしいわ! 一年間、頑張った自分へのご褒美。つまり自分サンタさんがプレゼントを俺にくれるのだ。ちなみに今年はPT4ソフトの『虎が如く8』がプレゼントだ」
 虎が如くはご存じ大人気のヤクザゲームだ!
「へぇ……」
「このあとが大事だぞ。デパートで巨大なチキンを買い、そして宅配ピザを頼む。食べ終わると『さんちゃんのサンタTV』を見つつ、アイドル声優の『YUIKA』ちゃんが女声優たちとクリスマスパーティーしているか、SNSをチェック。聖夜の巡回だ!」

 『YUIKA』ちゃんとは今一番ノリにのっている可愛すぎる声優さんのことだ。

「それって何が楽しいんですか? 一人で寂しくないんですか? たまに『いま、俺ってなにやってるんだろ?』って我に返りません?」
「返るか!」
 ちょっとはある。
「だから、言っているんですよ。DOセンセイはライトノベル作者だというのに、十代の読者が欲しているものがまるでわかってません」
「なんだそれは?」
「一言でいえばラブです」
「なにそれ、おいしいの?」
「おいしいです!」

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