第1話 強飯式

文字数 1,675文字

○T県N市ホテル満福

 グルメ評論家のN氏とそのアシスタントの女芸人A子、講壇社の編集者S氏は、音声やカメラマンとともに雑誌取材の為、市内R寺で執り行なわれる強飯式に出席しようと近辺のホテル満福に前日先ノリしていた。総勢五名の一行である。

ホテル満福レセプション19:00
(女将)このチャイニーズコロリン禍の中、遠路はるばる東京からようこそ。板場には指示を出して腕によりを掛けての懐石料理を用意させてあります。温泉も二十四時までご利用いただけます。
(編集者S氏)先生もスタッフももう腹ペコだ。さっそく夕飯にしてもらおうかな。温泉はその後だよ。
(グルメN氏)ここN市の懐石料理がいただけるなんてね、若鮎の塩焼きや地蕎麦だけでも2、3ページは書けそうだよ。
ここの強飯式に出席なさる方々は、前世よっぽど業を積んだ方か徳のある方かのどちらかだそうですよ。
(アシスタント)ウチ、なんか怖なってきたわ。帰らしてもらってもええですか?
女将、そんな伝説めいた余計な話はいいんだ。早く部屋に案内してくれ。
ハイッ。失礼致しました。
一行を部屋に案内する女将。
○光復の間 19:20

山川の豪華料理に一同驚く。

流石、江戸時代から栄えた宿場町だ。料理の格式が違うな。
今晩の懐石料理だけでも記事になりそうだよ。
ウチな、大阪のアイリン地区で育ったんや。死んだオカンにも一口でいいから、こんな豪華な料理食べさせてやりたかったわ。
一同、しんみり。
これも人気グルメ作家の先生のお陰だよ。先生が記事を書く度に読者の評判になり、我が社の発行部数も伸びる。
(音声)先生、ありがとうございます。今晩は、入念に機材のチェックをしてから寝ますよ。
(カメラ)バッテリーを100%にしてから寝ますよ。先生、いただきまーす。
フオッフオ、取材の前日からそんなに気合いを入れていたら明日かえってうまくいかないぞ。
そーですよね。早く食事を済まして、温泉入って寝ましょう。
ほな、ウチだけ女やさかいな、別部屋やな。
食事を終えたA子だけ、女一人「紅蓮の間」シングルに泊まる。
○光復の間 23:00消灯。

一同就寝。

おやすみなさーい。
それから、丑三つ時。
おいっ、Sよおきろ!メシの時間だ。腹いっぱいくえっ!
テーブルには、古今東西の山海の珍味でいっぱい。
すっすごい料理だが、こんな一間余りの長い箸じゃ食べられないじゃないか。
2メートル弱の箸に驚くS氏。
貴様っ、口ごたえしたな。それじゃ、これでも食らえっ!
金属バットでめった撃ちに遭うS氏。
ウギャー
おいっ、Nよ起きろっ!メシの時間だ。腹いっぱい食え!
キミ、僕を誰だか知ってんの?叙勲もしている人気グルメ作家だよ。こんな長い箸じゃ食べられないだろ。
なんだ食えないのか。それじゃ、これでも食らえっ!
ヌンチャクでめった撃ちに遭うN氏。
ウギャー
おいっA子っ、起きろっ。メシの時間だ。腹いっぱい食え!
おまえ、地獄の鬼やな。どうせその棍棒でワイを殺す気や。せやっ、死ぬ前に音声の子にうまいもん食わせたろ。
A子、長大な箸で料理をつまみ音声の口へ。
姉さん、美味しいよ。
さよか、ほなカメラはんにも食わせたれ。
音声さん、長大な箸で料理をカメラさんの口へ。
姉さん、美味しいよ。
さよか、ほなウチにも一口食べさせてや。末期の一口グルメやさかいな。
カメラさん、長大な箸で料理をA子の口へ。
うん、美味い。これでおもい残すこともないわ。
フオッフオ。おまえら、全員合格だな。
口から火の粉を吐き、笑いながら消え去る鬼。
○紅蓮の間、翌朝8:00AM
あっ、あかん。もうこんな時間や。早う事前の打ち合わせをせんといかん。
光復の間に駆け込むA子。
編集者のSはんとN先生はどこや?朝から見当たらんのやけど。
今回の企画は、「女芸人一人旅」ですよ。そんな人達いるわけないじゃないですか。
そうですよ。編集者のSさんは、東京本社で勤務中ですし、N先生はご自宅で執筆中ですよ。
ほな、アホな。
慌てて、レセプションに走るA子。
えっ?昨日いらしたのは、三名様でA子様にスタッフの男性二名様です。
女将、宿帳を見せる。
他には誰もいませんでしたよ。
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